第9話 大罪
「まず、ルエン君。大罪というものについて知っているかい?」
「大罪ですか?」
あまりにも聞きなれない言葉。
だからでしょうか。
僕はブリヤン様の言葉をオウム返ししてしまいました。
奴隷のときならば、一度で理解しろと叩かれてしまうのですが、今ならば安心して聞けました。
思っていた通りに、ブリヤン様は僕の事を叩くことはなく、丁寧に僕に“大罪”というものについて教えてくださいました。
「大罪というのはね。私たちより超常的な存在である神が定めたものだよ」
「神ですか?」
またも聞きなれない言葉。
いや、少し語弊があるかもしれません。
遊び部屋に居た頃は、神に祈る声はしばしば聞こえていましたから。
ただ、神という存在について、僕は疑問に思いました。
それを素直に言葉にします。
「あの、ブリヤン様、神って本当にいるんですか?」
「ああ。歴史的にみて、人如きでは発生させられない現象と言うのは存在する。それを神なる存在が為したという記載が歴史にはある。まぁ、私自身も神は存在すると思っているよ」
「そう、ですか」
僕には、返す言葉がありませんでした。
神なる存在がいるとして、その存在を信じて祈った者に、何か救いはあるのでしょうか。
遊び部屋にいた僕は、そう思わざるを得ません。
そう考えている間にも、ブリヤン様は説明を続けてくださいます。
「大罪というのはね。人を破滅へと導く罪や感情を言うんだ。そのことから、七つの罪源とも言うね」
なるほど、と僕は思いました。
人を破滅に導く代表的なものを言葉で表したのだな、と。
なら、余計に僕は罪源には程遠いのでは、と思いました。
すぐに思いつくだけでも、僕は物欲からは遠いです。
奴隷如きが何かを欲するのは間違っていますから。
ブリヤン様は、大罪についても説明してくださるようです。
「さて、ルエン君は罪に繋がるものについて何が最初に思いついたかな?」
「物欲でしょうか」
「なるほど。確かに一番想像できる罪というか欲だね。物欲は実際、いろいろな事に繋がるよね。他人の持っている物に羨ましがる嫉妬。あれもこれも欲しいという強欲。いろいろに繋がる。でも、いま例えた“嫉妬”や“強欲”は本当に、物欲から連想されてきているかな?」
ブリヤン様は何をおっしゃりたいのでしょうか。
物欲は、罪の源ではないのでしょうか。
僕の想像が逆なのでしょうか。
物欲があるから、欲しがるのではなく。羨むから、嫉妬するから欲しがるのでしょうか。
ここまでの思考をブリヤン様に聞いてみました。
「そうだね。その考えで問題ないと私は思っているよ。物欲に繋がる理由がどこかに繋がる。その理由こそが大罪だ。大罪や罪源は、色々な感情や欲の源になるんだよ。だから、物欲自体は間違いじゃない。物欲が増した原因が大罪に繋がる、と勝手ながら私は思っているよ」
ブリヤン様のおっしゃることは難しいと感じます。
要約すると僕が思いついたことで問題ないのでしょうか。
嫉妬を例に出すと次のようなイメージでしょうか。
物欲→嫉妬→罪を犯す。ではなく、嫉妬→物欲→罪を犯す。
何となくですが、これだろうというイメージになりました。
それにしても、大罪は七つもあるのですか。
その七つの内容が気になりましたが、質問する前に、ブリヤン様は先んじて僕に教えてくださいました。
「では、罪源にある七つを教えよう。七つの内訳は、《傲慢》《強欲》《色欲》《嫉妬》《怠惰》《憤怒》《暴食》だ」
ブリヤン様は一気におっしゃられました。
奴隷の僕は、ご主人様の命令を聞くとき、全てを一気に覚えなくてはいけないので、難なく覚える事が出来ました。
ただ、ブリヤン様は内容も含めて、僕にもう一度教えてくださるようです。
「《傲慢》は、人を見下すことをいう。《強欲》は、あらゆる欲しがることをいう。《色欲》は、色の事、つまりは性的な欲をいう。ここまではいいかな?」
「はい、大丈夫です」
ブリヤン様は、簡潔に分かりやすく教えてくださいます。
そして、続けて教えてくださいました。
「続きだね。《嫉妬》は、何かを羨む感情が攻撃的になったこと。《憤怒》は、怒り。それも激しいものだ。《暴食》は、いき過ぎた食欲のこと。ここまでもいいかな?」
「はい」
「さて、《怠惰》は少し他の大罪とは毛色が違う。他の大罪は、欲する心や他者へ対する攻撃的な姿勢が多く感じると思う。ただ、《怠惰》だけは違う。《怠惰》は、放棄を意味するんだ」
「放棄ですか?」
「そうだ」
ブリヤン様のおっしゃられた事を理解しましたが、放棄する事が罪になるのでしょうか。
僕の疑問を雰囲気で察してくださったブリヤン様が説明してくださいました。
「放棄。これだけでは、罪とはならないよね。詳しくは、やらなければならない事を放棄することを言うんだ。この《怠惰》に関しては色んな意味があると、私は思っている」
「意味ですか?」
「そう。すべきこと、つまりは仕事などの与えられたことを放棄するのは確かに罪だろう。だが、休むことを放棄する、つまり何も考えずに働き続けるのを放棄するのも罪だと、私は思っているよ」
ブリヤン様のおっしゃった事に疑問を感じました。
働くことは良いことのはずです。
ブリヤン様は続けて説明してくださいます。
「休むことも私たちの権利なんだよ。人は働き続けると壊れてしまう。より良い労働に繋げるために休憩は必要なんだよ」
そうおっしゃった後、一呼吸入れてブリヤン様はおっしゃいました。
「ここから私独自の解釈だけどね。休むことも働くことも、どちらも大事だけど。それだけじゃなく本当に自分のしたい事を思考する事。これを放棄するなという事を神は言われたいのだろう、と私は思っているよ」
そうおっしゃられたブリヤン様は微笑みを作り、おっしゃいました。
「つまり、神は『思考を放棄するな』って、おっしゃりたいのだと思うよ、私は」
その説明に、僕は腑に落ちました。
確かに、僕に大罪に関するスキルが生えるのは当たり前です。
思考を放棄しているのですから。
「以上が、ぼんやりとした大罪の説明だね。ここから本題だ。君のスキルについての説明だ」
そうおっしゃられたブリヤン様は真剣な表情で続けました。
「私たちが知っている大罪スキルはね。死んだ後に、効力を発揮するスキルなんだ」
「死んだ後に、ですか?」
「そう。話は変わるが、あるお伽話に鬼というのが登場するんだが、鬼は実在するんだよ」
急に、話が変わりましたが、ここで関係のない話をするとは思えません。
「もしかしてですが、その鬼って」
「そう。鬼とは、大罪スキル持ちが、死亡した後にスキルの効力を発揮した存在なんだよ。そして、鬼は決まって大きな災厄を起こすんだ。例えば、魔物を大量に従えたり、鬼自身が大きな力で国を亡ぼしたり、それこそ地震のような災害を起こしたり、さまざまだ」
ブリヤン様のおっしゃったことを、理解したくない自分がいます。
ですが、ブリヤン様は僕が逃げる事を許してくださいませんでした。
「ルエン君、君のスキルである《色欲の種》《憤怒の種》《怠惰の種》は、君の死亡後に効力を発揮する大罪スキルだと私たちは考えている」
その言葉を聞く前には、もう僕の血の気が引いていました。
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あとがき
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。ソラゴリです。
現在(2025/10/14)の時点で、ここまでの文章を修正しました。
次話以降の修正作業が終わり次第、このあとがきは消去します。
よろしくお願いいたします。
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