混乱続く②
ひやりひやりと襲ってきた現実は祐希のもしかしたらを打ち砕くには十分だった。夢だったらよかったのに。
「ノア」
遠くで聞こえた声が再び遠のく意識をぐっと引っ張り上げた。
「兄さま!」
無邪気な声を上げた少年はもう行かなきゃ!と祐希に声を変えて先ほどの声の主の元まで駆けてゆく。嬉しそうに家族に駆け寄る様に祐希の心はぐっと悲鳴をこらえた。
「おねーさん!また今度逢おうね!」
手を振る少年に思わず小さく手を振り返す。彼の兄だという同じく金色の輝く髪を持った青年がこちらを見て淡い笑顔を浮かべた。まるで桜にさらわれそうな彼は確かに少年と似ていた。慌てて会釈を返せば祐希を再び逃避の世界に連れて行った彼は近くの人物と何かを話している。なるほど切り替えの早い人物のようだ。それからよくよく見てみると彼らの周りの人物はどうやら一般人ではないような気がする。しげしげと眺める祐希の視界に影が差した。
「我が主から伝言を受けている」
祐希が慌ててそちらを見遣ると先ほどの”兄”という人物が話していた彼だった。
「はい!」
どうやら思いのほか観察に夢中になっていたらしい。思わず大きな声が出て自分自身も驚いてしまう。とっさに口を覆えば目の前の彼は驚かせてしまったなとぶっきらぼうにつぶやいた。悪い人ではないのかもしれない、祐希はそう思いつつもごめんなさいと小さくつぶやいた。
「我が主から伝言を受けている」
厳かに告げられた二度目のそれにぼんやりと律儀な人だなぁと感想をいだく。それから『我が主』というのはノアと呼ばれた少年と彼の兄なのだろうか。ぼんやりとめぐる思考が表に出ていたのだろうか目の前の彼が小さく咳ばらいをする。
「すまない。今回はお忍びだったから本来は名前を明かしてはいけないのだ。」
その言葉に小さくうなずく。どうやらこのあたりの偉い人らしい。まあ、祐希にしてみればそんなことは関係ないのだけど。
「先ほどのうっかりを黙っていてもらう代わりに・・・・・・」
そっと取り出されたのはメモだった。
「このメモは大事に持っておくといい。きっと君の役に立つ。」
そういって彼は去っていった。いつの間にやら少年の兄・・・・・・我が主とやらもいなくなっている。
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