39. 魔性の女(27)
夫人は、楕円形のガラスのテーブルに二組のブルーダニューブのカップを銀のトレーで運んできて、じぶんは横のひとり掛けのソファーに座った。
トレーのミルクとコーヒーシュガーをすすめられたが、
「ブラック派ですので・・・」
というと、
「あら、男らしくていいですね」
とほほ笑んだ。
「今度は、ぜひ玉川の家の方へもいらしてください。とびきりのブルーマウンテンと自家製のチーズケーキをご馳走します。なんならランチにパスタを差し上げます。麺から作りますのよ」
夫人の柔らかな表情を見ると、お愛想で誘っているわけではないのが分かった。
結婚祝いに建ててもらった玉川の家に葛城社長と息子の三人で長いこと暮らしていたが、父親が亡くなると今度は母が病気で倒れ、その母を家に引き取り、入れ替わりで息子はここでひとり暮らしをするようになったと夫人はいった。
「ここへ昼の2時間だけピアノを弾きにやって来ますの。でも息子は学校の勉強が忙しいとかで顔を合わせることもなく・・・」
夫人は顔を曇らせ、
「それに夫も・・・」
葛城社長があまり家に帰らなくなったとこぼした。
「母と夫とはあまり気が合いませんの」
どこの家でもあるような家庭内のいざこざを匂わせたが、それ以上はいわなかった。
葛城社長は今では恵比寿のホテルを定宿にしているという。
これには驚いた。
「そこへ女の子を引き込んで・・・」
夫人は眉根に皺を寄せた。
「それがホステスぐらいなら、とやかくはいいませんが・・・」
夫人はいうのを止めて、こちらをうかがった。
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