40. 魔性の女(28)
「大河原とかいう新人の子を秘書室長に抜擢した上に、出張旅行に連れ回し・・・」
夫人は、そこでて目を伏せていい淀んだ。
「・・・いっしょに暮していると注進してきた複数の幹部がおります」
夫人は意を決したようにいってから、深い溜息をついた。
「なんでもその女の子は、元はあなたの会社の社員だったとか・・・」
眉を寄せた険しい表情は、夫人の美しい横顔に似つかわしくなかった。
これで、夫人がわざわざ田園調布の息子の家に呼びつけたのは、紗耶香のことを探るためということが分かった。
「ええ」
とは答えはしたが、どこまで紗耶香の話をすればよいのか思いをめぐらしていると、
「英語が堪能だそうですね。・・・でも、それってコンサルタントのあなたのお仕事でしょう」
『元社員の女の子に仕事を奪われて口惜しくないの』
などと棘のあることばを夫人は口にしなかった。
育ちのよい夫人は、他人のこころにずかずかと土足で上がり込むような女性ではなかった。
「電子レンジを上海の工場で一貫生産して、北米に大量に売る話がまとまったので英語の話せる秘書がほしいということで推薦しました」
『じぶんの愛人にしたがトラブルになったので、葛城社長に押し込んだ』
などとは口が裂けてもいえない。
「銀座のホステスさんなら笑って済ませるでしょうが、会社の社員となると・・・」
夫人は、公私混同では社員にも示しがつかないといいたいのだろう。
・・・葛城社長は、とんだ虎の尾を踏んだようだ。
「こんなことは母の耳に入れたくないのですが、話が大きくなるとどうなりますか」
老舗商社の代表取締役で60%の株を持っていても、世間知らずのお嬢さま育ちでは、会社経営の実務などできるわけがない。
そこへ降ってわいたような夫の愛人の話などが加わって、耐えがたいものがあるにちがいない。
「社長との付き合いは20年近くなります。たしかに女性関係は派手ですが、・・・いずれも長く続くということはなかったように思います」
などと、余計なことを口にしたが、
「・・・だといいのですが」
額に手を当て悩みに沈み込む夫人は気にとめなかった。
「どんな女の子です?」
夫人は、相手がホステスなどではないのがどうにも気になるようだ。
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