25. 魔性の女(13)

上海に出かけて、現地子会社の総経理と工場長と幹部たちを集めて会議を開いた。

用意しておいた英文のアジェンダを配ると、

「さすがに用意周到だね」

褒めた葛城社長だが、会議前にアジェンダを配る常識を知らないのには呆れた。


電子レンジのデザインパテントの話から入ったが、今度は中国人幹部が製品デザインパテントを知らないのに驚いた。

工場試作品をアルミの簡易金型で100台作ったが、そのデザインは日本のブランド品のデッドコピーだと自慢気にいった。

他の家電品はどうかとたずねると、やはりすべて売れ筋の世界のブランド品のデッドコピーだという。

中国国内だけで売るならそれでも問題はないだろうが、世界の先進国相手に売るのなら製品デザインからやり直す必要があった。


次は、電子レンジの国際規格の認証マーク取得の話に移った。

さすがに北米のULとCSA規格のことは知っているので、すぐに試作品をULとCSAに型式認定の申請する手続きに入ることになった。


そこまではよかったが、電子レンジの出すマイクロ波の北米の規制について知っている幹部はだれひとりいなかった。

高周波を出す電子レンジは、食品にもからむので、FCCとFDAの認可が必要という常識すら持ち合わせていなかった。


延々と続く不毛な会議に音を上げた葛城社長は、早々に切り上げてホテルに逃げるように帰った。

プールで泳いでサウナに入ると、

「あいつら使い物にならん。全員馘だ!」

思い通りに事が運ばなかったのが癪に障ったのか、彼にしてはめずらしく興奮して腕を振り回した。

この事業のトップである葛城社長が誰よりも勉強し、すべての詳細について知識を持ち、陣頭指揮を執るべきだと思ったが、さすがにそれは口にできなかった。

「中国の法律では、51パーセント以上の株を現地法人が持つように定められているので、簡単に総経理を馘にはできませんよ」

というと、葛城社長は凄い形相でにらみつけるありさまだった。。

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