22. 魔性の女(10)

「この浮気者!」

暗い居間に入って灯りを点けると、いきなり荒いことばの礫が投げつけられた。

泣きはらした顔で、由布子はテーブルの向こうに放心したように座っていた。

そのまま棒のように立っていると、

「パパは、ママにひどいことをした。ママに謝って!」

いつの間にか後に立った咲恵が叫んだ。

「俺が悪かった。申し訳ない」

とっさに膝を折って土下座した。

「あの女は今日限りで馘にした。二度と会うことはない」

そういって顔をあげると、

「あの女と何回やった。・・・今日もやったのか」

由布子は、夜叉のように目を吊り上げ、深夜まで執拗に責め立てた。


しかし、翌朝早く起きた由布子は、鼻歌を歌いながら豪勢な朝食を作っていた。

「俺が土下座したからかな」

咲恵と駅に向かって肩を並べて歩きながらそういうと、

「そんな軽いもんじゃないよ」

咲恵は取り合おうとせず、横を向いた。


出社すると、紗耶香の姿はすでになかった。

「朝早く来て私物を持ち出したようですが・・・」

経理の宮部女史が眼鏡を持ち上げて訝しそうにこちらを見た。

「ああ、彼女は今日からABC商会に出向だ。葛城社長が有能な秘書が欲しいというのでね」

そんな説明で納得する女史ではなかったが、

「今月から彼女の分の給料はABC商会に請求してください」

というと、女史はあっさり引き下がった。

それからは、葛城社長の飲みへの誘いもきっぱり断って、定時になると家に直帰するようにした。

それで、何事も丸く収まったように思えたが・・・。

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