21. 魔性の女(9)

夕闇の迫る成田飛行場に着くとすぐに、紗耶香に電話をした。

会社近くのレストランに呼び寄せて、

「ひどいことをしてくれたね」

会うなり、きつく叱った。

「わたしだけ離婚して、あなたが離婚しないなんて絶対におかしい!」

紗耶香は、すぐさま反論した。

ひどいいことをしたという考えはまるでないようだ。

「ものには順序というものがある。・・・結婚生活も長いので、説得するにはそれなりの時間がいる。長い人生には、がまんしなければならない時もある」

などと、忍耐を諄々と説いた。

「最近、社員たちもわれわれの関係に気が付いて、うるさくいう者もいる」

「ああ、経理の宮部さんでしょ。会社の金で遊べていいわねえといつも嫌味をいわれています」

「そこだよ。社員の口封じのためにも、何か行動を起こさなければならない。思いを実現するためには、やはりがまんだよ」

笑顔を浮かべながら、優しい口調で説得にかかったが、・・・支離滅裂でじぶんでも何をいっているのか分からない。

「明日からABC商会に出向してくれないか」

というと、

「・・・それって、わたしを追い払うための口実ではないですか」

紗耶香は口を尖らせた。

「そうではない。・・・しばらく時間をくれないか」

顔を寄せ、紗耶香の目を見つめていった。

「どれぐらいですか」

「土曜日は必ず時間を作って会う。それは約束する。・・・ただ、しばらくは波風を立てないようにしてうまくやり過ごすしかない」

結婚とか離婚などと口走って地雷を踏まないように用心しながら、半ば強引に明日からABC商会へ出向することを認めさせた。

・・・だが、家に帰ると、いきなり修羅が待っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る