20. 魔性の女(8)

すでに十数回由布子からの電話の履歴があった。

・・・折り返しの電話を何度もしたが、通じない。

やむなく咲恵の携帯に電話した。

咲恵は、勤めから遅く帰ったが、母親は部屋に閉じこもったままで事情は分からないと答えた。

由布子は、夫婦の間で何かあると、いつも長姉の幸子相手に愚痴をこぼすので、そちらに電話をした。

「あなたの浮気癖にも困ったものね」

電話に出た義姉は、いきなり説教を垂れ、

「でも、今度ばかりは許せない」

と心底怒っていた。

「あなたの会社の女の子が家にやって来て、あなたと別れてくれといったのよ。お金なら1億でも2億でも払うって。・・・ひどくない」

ただただ驚き呆れ、延々と続く非難に頭を垂れるしかなかった。

すべての責めは負うが、明日できるだけ早く由布子を訪ねてやってほしい、じぶんもすぐに帰る、といって電話を切った。


カラオケホールにもどると、葛城社長はふたりのホステスの肩を両手で抱え、ソファーでふんぞり返っていた。

「家で不都合なことが起こったので、明日の便で帰らせてもらいます」

顔を寄せて頼み込むと、

「ああ、いいよ」

と、うなずいた葛城社長だが、それならじぶんもいっしょに帰るといい出した。

ここでの仕事もなく、上海で遊ぶのに飽きて銀座の水が恋しくなったのだろう。


成田へのフライト中に、

「女の子をひとり預かってもらえませんか?」

と隣の席の葛城社長に頼むと、

「美人かい?」

とストレートに聞いてきた。

「ええ、とびっきり」

と答えると、

「ああ、分かった。いつでもいいよ」

こっちの顔を見やってから、意味ありげにうなずいた。

社長は男女の恋愛沙汰には敏いので、何があったかはすぐに察したようだ。

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