19. 魔性の女(7)
翌週は、工場の製造ラインでトラブルが発生し、すぐ上海に飛ばなければいけなくなった。
だが、いざ出かけてみると、トラブルはすぐに解決したが、今度はULによる抜き打ちの工場検査があり、製造プロシージャーに問題があると指摘された。
コストは安いが品質の劣る部材に、購買部長が勝手に切り替えたのが原因だった。
購買部長を即座に馘にして、元の部材に戻したので、この問題は一週間でなんとか片づいた。
とんぼ返りで日本にもどってもよかったが、葛城社長がこの機会に上海近郊の名所めぐりをしようといい出した。
葛城社長は、元々は大手広告代理店の営業マンで、大学時代はラグビー部の花形ランニングバックだった。
胸板の厚いがっちりした体形でいながら、愛嬌のある童顔をしていた。
根っからの遊び人で、ABC商会の創業者のひとり娘と結婚してからも、銀座や赤坂でホステス漁りが止まなかった。
創業者が急死した3年前に、未亡人に乞われてABC商会の代表権のない社長になり、広告代理店時代の外注先だったじぶんの会社に仕事を回してくれた。
見積書は出すが、ほとんどフリーパスで、やってない仕事でも請求書を出せば支払ってくれた。
架空請求というやつだ。
それで、傾きかけていた会社は助かった。
同じ業界に身を置いていた誼もあり、大学こそちがうが同学年なので、遊び仲間としての夜のつきあいが仕事みたいになった。
上海でも、葛城社長の酒宴と女遊びはお盛んだった。
高級ホテルに泊まり、朝から子会社の工場の総経理室に陣取ってあれこれ指示を飛ばし、英語の得意なじぶんがそれを通訳して工場の幹部に伝え、昼は中華料理のフルコースを長い時間かけて堪能し、夕方早くにはホテル併設のプールで泳いだ。
泳いだ後はサウナとマッサージで、そのあとは巨大カラオケハウスで、ホステスを侍らせて酒宴をしながらカラオケ三昧・・・。
酒宴の後は、並ばせた50人ほどのホステスの中から選んだ女の子をホテルに連れ帰るという宴の日々を連日連夜繰り返した。
ある夜、カラオケハウスでいい気持ちで歌っている時、内ポケットの携帯が鳴った。
由布子からだった。
「どうした?」
カラオケを途中でキャンセルして、部屋の外へ出た。
「あなた。・・・わたし死にます」
携帯電話の先のはるかに遠い過去の国から呼びかけるような、微かな由布子の声が聞こえた。
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