16. 魔性の女(4)
・・・紗耶香の夫からの一本の手紙ですっかり怖気づいてしまい、紗耶香を誘う気が失せてしまった。
「女のからだに火をつけておいて、どうするつもりですか」
半月ほど放っておいた紗耶香が、社長室にやって来て半べそをかきながら訴えた。
やむなく、仕事が忙しいと由布子に嘘をついて、土曜日は毎週出社することにした。
午前中は仕事をして、ランチを紗耶香といっしょにして、午後からはラブホテルで過ごすのがルーティンになった。
「上海の子会社に家電品の企画開発から製造まで一貫生産させ、米国と欧州に販売する事業をいっしょにやらないか」
中堅商社のABC商事の創業者の娘婿である葛城社長に前々から持ちかけられていた話に、これ幸いと飛びついた。
それまであちこちの工場に分散発注していた外注先を、合弁で設立した上海の工場に集約すれば、納期も価格も思うままにコントロールでき、利益率も上がるというけっこうずくめの話だった。
クライアントのABC商事と別途コンサルティング契約を結び、葛城社長のお供で頻繁に上海へ出かけるようになった。
何も知らない由布子が、かいがいしく尽くしてくれるのを見るのがつらかったが、いったん出張すれば半月は上海に滞在するので、紗耶香とも距離が保てるという思惑もあった。
上海からもどったある日、由布子が、
「こんなものが・・・」
と配達証明付きの書類を差し出した。
自室で開けてみると、それは紗耶香の夫の代理人の弁護士からの催告書だった。
紗耶香との不倫によって被った精神的被害への多額な損害賠償請求を夫が求めていた。
夫の名は、古納戸ムハマドとあった。
探偵に尾行させたのか、紗耶香と密会した土曜日の日時とホテル名と滞在時間が克明に記された、写真付きの有無をいわさぬ証拠も同封されていた。
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