11. 売られた花嫁(11)
・・・お腹が空いた。
このままでは飢え死にする。
何度も蓋を内側から叩いたが神父さまはやって来ない。
今はもう蓋を叩く力さえなくなった。
最後の力を振り絞って足で棺桶の蓋を蹴ろうとしたが足が持ち上がらない。
やむなく拳で蓋を叩いた。
力のかぎり叩いたつもりだが弱々しい音が棺の中で響いた。
・・・絶望を感じる力さえ残っていなかった。
もはやヒトではなくモノになったような気がした。
からだが、棺桶の底板に溶け込んでしまったような奇妙な感覚がした。
最後の力を振り絞って蓋を持ち上げようとした。
釘は打ってなかった。
だが蓋は重かった。
かろうじて少しだけ横にずらし、できた隙間に指を差し込んでさらにずらした。
両の掌で横に払うと蓋は乾いた音を立てて落ちた。
棺の外の墓場も暗かった。
立てた音が神父に聞こえなかったか心配だ。
棺に横たわったまま聞き耳を立てた。
プルートのように闇の世界を支配する神父さまはやってこない。
・・・近くにいないのかもしれない。
それでも用心して棺にすがるようにしてようやくからだを起した。
棺から出るのにとてつもない時間がかかった。
墓場の暗闇の中を這った。
当てずっぽうに向かったところに扉があった。
倒れるようにして押すと扉は向こう側に開いた。
花嫁の部屋も暗かった。
「たしか突き当りに階段があったはず・・・」
さらに這って進むと階段に手が触れた。
階段を登り壁を手で探って見つけたスイッチを押した。
まばゆい光が花嫁部屋を照らし出した。
相変わらず右手の壁際のベッドに、ウエディングドレス姿の花嫁が横たわっていた。
左胸のくすんだ赤い薔薇の花と見えたのは血痕にちがいない。
近寄ってよく見ると、厚塗りの白い化粧と思ったのは、ビニール製の白い顔だった。
からだも精巧にできてはいたが、等身大のビニール製の人形と分かった。
・・・これってダッチワイフ?
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