お休み

第20話 お休み

【お知らせ】


 しばらく配信はお休みします。

 引っ越してから、やっとゲームをする環境が整って、同期のコラボも解禁されて、調子に乗って連日長時間配信をしていた所為か、朝起きると声が出なくなっていました。何日か前の配信でお話しした通り、ここのところ体調が悪く、「熱っぽいなぁ、風邪かなぁ?」なんて言っていたらコレです。過度の配信による喉へのダメージと、飲んでいた薬も悪かったみたいで、しばらくは配信できませんが、深刻なものではないので博士のみんなは安心して下さい。


 ――試作機プロト、十二月二十日、午前十一時六分の投稿から引用。


***


 怠い。身体が重い。熱っぽい。体温上昇で頭のぼやぼやした感じはまるでサウナの中に居るようで、さらには内側から蒸されているから逃げ場がない。サウナならこんな時は水風呂に浸かれば気持ち良いだろうが、今は悪寒が止まないし、手で冷たいものに触れると肌をチクチクと刺すみたいな拒絶反応がある。


 ――流石に今日は配信できないな。


 プロトは仰向けに寝たまま、額に腕を置いてため息を吐く。

 前々から体調を崩していた。今更だが、風邪を引いたのはもう明らかで、それが重症化したんだろう。体温計がないから額を触って熱を測るが、額どころか顔も手も何処でも熱くてよく分からない。


 プロトは決まって連日暇続きなのに『明日も配信するの?』と視聴者に聞かれた時には「今のところ分からない」と答えて来た。配信するのがプレッシャーになると嫌だったからだ。

 その逃げ癖、良く言えばメンタルコントロール法が役に立って良かった。やっぱり、こんなふうに唐突に休むこともある。


 取り敢えず、今日はゆっくり休んでいようとプロトは思うのだが――。


 ……果たしてこれは寝ているだけで何とかなるのだろうか。

 そんなレベルではない気がしてならない。病気の時はいつにも増して不安になるが、これは杞憂なのかどうか。どちらにしても、距離的にも、関係的にも親に頼るのは難しいし、だからといって薬を買いに家を出る気にもならない。

 引っ越して間もない、と言っても引っ越してから二ヶ月ぐらいは経つのだが、常備してあるのは花粉対策のアレルギー反応を抑える目薬と整腸剤くらいである。

 そう遠くない距離にドラッグストアもあるのだが、今の状態を鑑みるに歩いて十五分は掛かるのではないだろうか。

 往復で三十分――その言葉のインパクトが出不精のプロトを悩ませる。


「はぁー」


 結局、状況は何も進展しないままに、プロトは目を閉じた。


 熱の所為か目を開いているだけで乾いて仕方がない。だから、瞳を閉じているとジーンと染みるような心地良さがあり、瞼を閉じずにはいられない。

 身体を包む感覚がいつもとは違うから、いやに目は覚めている。しかしながら、今出来るのは瞳を閉じて身体を休めることくらいだった。多分何度か寝落ちしているだろう。けれど、それも倦怠感の所為で覚醒時と入眠時の差が曖昧で分からないし、休めているのかも分からない。


 そんなプロトが自分の寝ていることに気付けたのはスマホのアラームが鳴った時だった。最初から収録されている好きでも嫌いでもない音楽が耳元で流れ、ゆっくりと目を覚ます。

 音が鳴っているのに気付いて、それが耳元で鳴っているのが分かって、眠っていたのに気付いて、それが音楽だと分かって、スマホのアラームだと気付いて、目を開けて、首を回してスマホを手に取り、アラームを消し止めた後で、そう言えば四期生のミーティングがあったことに気付く。


 ――ああ、そうだ。準備しないと。


 会議室に集合する時間より一時間前にアラームをセットしたのだ。予定があると前日の夜は中々寝付けなくなるので、ギリギリまで寝ていたい派のプロトはいつも準備の時間を逆算して入念にアラームをかけておく。

 それでいつも行動するのが早すぎるくらいで、結局時間を持て余すのだが、だからといって、何十分前行動が当たり前になっているこのせっかちな性格を直すことは今のところ出来ていない。

 損をしている自覚はあるが、直せる気はまるでしない。


 歯を磨いて、顔を洗って、着替えて三十分ぐらいだから……。


 そんなことを考えながら、プロトはベッドから身を起こし、ノソノソと部屋を歩き始めた。

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