第19話 パーティゲーム
四期生が前触れもなく四時間のゲームコラボ配信を敢行してから、プロトのチャンネル登録者は一万八千人まで増えて、エピ配信を開始すると直ぐに五千人近い視聴者が集まる程になった。
コメントを拾いながらゲームをするということにまだまだ慣れないが、それでも配信の面白さの比重が雑談からゲームに分配されたことで、無理に喋らずとも良くてプロトとしてはより自然体で話すことができた。
それに、エピが今最も流行っているゲームだというのも大きいだろう。
あれから、四期生三人でのコラボはなかったが、一人ずつとエピをすることはあり、今日は四期生ゲームコラボ以来に全員が揃うことになった。
「プロトが最近エピ配信ばっかりしてるから、今日は別のゲームさせようと言うことで、コチラをやります!」
視点主のホウキは「ドンッ」とセルフで効果音を言って、配信画面の蓋を開ける。
タイトルとかサムネイルで何するか自体は分かってるだろ。
――と、そんな野暮なことをプロトは胸の内に秘めたままにした。
プロトたちが集まったのは、配管工の兄さん(髭面)の知人であるカメの怪獣が主催するパーティである。
怪獣はガハハと不穏な笑みを浮かべ、パーティの開催ついて一言述べたかと思うと、それからは奇声を上げるキノコの妖精がすごろくのルールを紹介した。
「はーい。Vモンスターズの四期生、魔法少女の空飛部ホウキです。使うのはテレサでーす」
「……」
「ん?次は?」
自己紹介をしたホウキが、誰も続いてこなくて気まずそうに言う。
「あ、こんこーん。黄金イナリですぅ。ウチは、ほんならこの黄色いオッサンで」
イナリが決定ボタンを押すと、赤っ鼻に稲妻のような髭を生やしたダミ声が喋る。
「んあ゛」
三人目に手番が回って来たプロトが、キャラ選択と共に自己紹介をしようとするが、たんが絡んだのか上手く声が出ず、ダミ声キャラよりもダミ声な呻き声を上げる。
「どうしたの?」
「大丈夫かいな」
同期の二人はそう言ってくすくすと笑った。
プロトはゲームを写したモニターの前で顔を真っ赤にしながら、喉の調子が深刻そうな咳払いを二回して、やっと声を出す。
「んん。あ、あ。試作機プロトでーす。ゴリラでーす。大丈夫でーす」
「ホンマに大丈夫かいな」
「実のところ、ちょっとだけ風邪気味」
『若干声違うね』
『お大事に』
『長時間配信ばっかりやってるから』
『喉はシルバーだな』
ホウキの配信のコメントを見ると、プロト以外のファンたちはかなり心配してくれているようだった。
「家出えへんのにどっから風邪貰って来たん」
イナリが聞きようによっては同棲の疑惑が立って炎上しそうな苦言を呈する。一応、一つ同じ屋根の下というのはあながち間違いでもない。同じ階ではないので正しいとも言い切れないが、住んでいるのは同じマンションである。
視聴者の疑惑の声が上がらないのは、視聴者の民度がどうこうは関係なく、最近のプロトはずっと長時間のゲーム配信をしていて、とても外に出ているふうには見えないからであった。
「分かんない。でも喉がガサガサなんだよね」
声が歪に震える感じを披露するみたく、プロトはわざとウィスパーボイスで言ってみる。
「プロトはちゃんと加湿器してるの?」
「いやしてない。けど暖房は付けてるから風邪引かないと思うんだけど」
健康の世情に疎いプロトは一見馬鹿みたいな意味の分からないことを言う。
「暖房つけてるなら尚更加湿しないと」
それを、本来は歳下であるはずのホウキが、まるでママのように窘めた。
***
配管工のパーティゲームはナンバリングされていて、今日までに幾つものゲーム機で発売されている。その中でプロトは携帯機で発売されたものが好きだった。まだ自分が子供で何も悩みがなかったころに、その頃画期的だった二画面の液晶タッチパネルを持ち寄って、ワイヤレスで散々パーティゲームに没頭した。
余談だがパーティだけではなく、カートレースもやった。
このゲームでは循環するすごろくの盤上を歩き回ってコインを集め、それをスターと交換して、最終的にスターの数で勝敗を決める。そして、他のプレイヤーよりも多くのコインを集めるには、全プレイヤーの手番の最後にあるミニゲームで勝つのが一番に手っ取り早い。
「もー、このゲーム全然勝てへんわ」
少々機嫌が悪いのはイナリである。ここまでミニゲームで全敗。一度も上位に浮上して来ず、残り六ターンを数える現時点で、追加したコンピュータが唯一のライバルのような状態である。コインの数は三十六枚。スターの数は〇個だ。
最下位のプレイヤーへの救済措置なのか、イナリはライバルのコインを奪うアイテムを使おうとするのだが――。
「プロト強くない?今、一位だし」
スター一個、コイン二十七枚のホウキが布石を打つ。
プロトはスター二個、コイン十二枚である。
「でもそれ期待値二十枚だから、僕よりもホウキの方がいいでしょ。コインはホウキの方が持ってる」
プロトが冷静にそう諭すと、
「はーん。何かむかつくな。プロトにするわ。このまま勝たれても腹立つし」
イナリは逆上して、ゴリラからオッサンへコインの筋が移って行く。
「イェーイ」
ホウキは手を叩いて歓声を上げる。
「これであとはわたしがスターマスまで行ったら」
そしてホウキはアイテムを使用して通常の倍のサイコロを振る。
「ちょ、ほら。こんなのホウキ勝ち確でしょ!」
「――うるさいな。何でお前ミニゲームまで強いねん。腹立つ!」
アクションゲーム。タイミングゲーム。パズルゲーム。判断力や動体視力。加えて、単純にゲーム歴なんかが何となく活かされて、ここまでプロトはミニゲームで一位か二位しか取っていない。
「友達おらんのやから、パーティゲーム上手くなってどうすんねん」
「おい!それ、ライン越えだぞ」
「……僕だって、もっと小さい頃は友達とDSを持ち寄って――」
そんなふうに機嫌が悪いイナリと不憫なプロトが言い争う様子を、ホウキはくすくすと笑いながら楽しそうに傍観していた。
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