第17話 終わらない戦いがある
勝つまでやる。
そういう約束だったのに、プロトたちは勝ってからもやり続けた。
配信時間はかれこれ三時間を超え、試合数は十三回。連続勝利が三回。今日だけで通算六回のチャンピオン部隊となっていた。
エピでは二十人にもなるキャラクターの中からパーティ単位で三人を選ぶ。味方内での被りはなし。そしてプレイアブルキャラクターは今後も追加予定である。
ゲーム内で各キャラクターは四つの兵種に大別される。
それぞれ、アサルトと呼ばれる攻撃的な性能を持つキャラクター、ディフェンスと呼ばれる防勢作戦を得意とするキャラクター、サーポートと呼ばれる支援が得意のキャラクター、リーコンと呼ばれる索敵や調査を得意とするキャラクターである。
しかし、プレイヤー間では前衛キャラ、後衛キャラと大別されることが多く、同じ兵種にありながら各キャラクター間の個性は大きく異なるため、例えば攻撃が得意なアサルトキャラクターでも一概にオフェンシブに戦うわけではない。
プロトは得意不得意はあれど、全てのキャラクターを人並みに、もしくはそれ以上に使うことができる。秀でた得意がない代わり、器用さと引き出しの多さには自信があった。
だから、初戦で使ったのは普段は選ばないリーコンキャラクターだった。リーコンキャラクターは安全エリアの収縮位置を先んじて調べることができる。バトルロワイヤルにおいて、安全エリアに入り続けること、安全エリアの中でより優位な位置を見つけ布陣することは最重要とも言え、リーコンキャラクターを積むことで勝率がぐんと上がる。
そして、索敵や調査が得意なリーコンキャラクターと言えど、プロトが使ったのはアビリティを使っての索敵ができないキャラクターで、その代わりにワイヤーを射出して三次元的な機動ができた。
ゲームスピードが速いエピに置いて、機動力は何よりの武器である。
交戦ポイントの地理で、撃ち合いのダメージレースで、戦況の不利を強いられると、このゲームはとことん不利を覆し難い。と言うより、必ず有利になるように動くことで、相手をジワジワと追い込むことができる。
自らがそうできるよう、または相手に有利を取られないように、早めの判断、素早い展開で機先を制することが戦闘面では何より重要なのだ。
そういう意味で、プロトの選んだキャラクターはただの後衛のリーコンキャラクターではなかった。
機動力を活かして誰よりも矢面に立ち、遮蔽物や高所を巧みに使って、ゲリラ戦でも行うように一人一人相手の戦力を削いで行く。
そんなプレイスタイルが良くなかった。と配信開始からいきなり三連勝を達成したプロトは静かに内省した。
イナリとホウキの活躍の場がない。
自分の実力とは合っていないようなマッチングで、フルパーティの上に適宜必要な指示を出して――。
勝てば二人は喜んだし、配信も盛り上がっているのだが、試合中はどことなく暇そうというか、まるで優勝するまでの流れ作業みたいで、詰まらなそうであった。
「ふぅ。勝ったぁ」
「ラスキル、ウチにもあげたってぇ」
それからプロトはディフェンスキャラクターを選んだ。身体(当たり判定)が大きいために前線で戦えるようなキャラクターではなく、機動力もいまいち。けれど、狭いエリアの毒ガスによる制圧力と、拠点の防衛力は目を見張るものがあった。
けれど、その個性がまた着実にプロトたちをチャンピオンに押し上げて――。
適度に危うくなるような見応えある試合をするには、いよいよプロトがマウスから手を離すくらいしかなさそうだった。
「プロト、止まってるって」
十何試合目か、イナリが言い出した。
配信を始めてから時間が経ち、少しの疲労間と集中力の減衰、そして良い具合の手抜きを模索して、丁度、真面目なゲームプレイが雑談メインになって来た頃だった。
プロトはハッとして足元のグレネードと鞄の中の持ち過ぎた注射器とを入れ替えた。
気付けばイナリとホウキが大分先を行っている。イナリは義足の特攻隊長と呼ばれるダッシュ速度をブーストできるアサルトキャラクターを、ホウキは空飛部という苗字とのシナジーを意識してジェットパックで空を飛ぶリーコンキャラクターを使っている。両者共に比較的機動力の高い、足が速いタイプであるから、鈍足のおじさんが一人孤立するのはよくある光景だった。
「今、おじさん必死に走ってるから」
焦るイナリを宥めるようにプロトは言った。
「そうやなくて、配信のプロトが動いてへんって」
「――嘘、配信止まってる?」
「違う。モデルが固まってるらしいよ」
ホウキが補足する。
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