第16話 腕前披露

 こちらの三人は直前まで雑談に花を咲かせ、物資を集めるために辺りをふらふらしていたので、お互いの距離が開いている。

 敵に奇襲され、各個撃破されたらひとたまりもないが、孤立した相手を追い詰めるには広く使ったほうがいい。

 今の場合、相手が少しずつ体力を削られるのを嫌がって岩裏のポジションを変えれば誰かの射角に入る。だから簡単に逃げることも、攻撃に転じて迎え撃つこともできず、ただ固まる他ない。

 つまり攻め時である。


「わたし、投げ物投げるよ」


 出遅れていたホウキが遮蔽となって狙えない岩の裏へ、山形にフラググレネードを投げた。

 グレネードを投擲する際は、あらかじめ投げたグレネードが辿る山形の軌跡が分かるようにはなっている。しかし、ゲームスピードの速いエピで直接敵にぶつけるように投げるのは、敵が固まって動いてない限り難しい。仮に相手が動いていなくとも、自分も動きながら正確な投擲をするにはある程度の経験が必要である。


 ホウキの投げたフラググレネードは確かに敵が身を隠す岩の方へは飛んで行ったが、前後の狙いが甘く、敵の隠れている裏側ではなく表側に落ちる。


 味方の投げたグレネードの爆発が効かないのがゲームの良いところである。飛行艇のサイズ感についての皮肉は言うが、プロトはフレンドリーファイアのあるゲームは好きではない。本当のところ、別にリアリストではないのだ。


 プロトが敵に向かって走る前に、コロコロとホウキのフラググレネードが転がり、間もなくけたたましい音をたて爆発する。

 爆発の黒い爆煙のエフェクトが広がり、直ぐに白い煙になって霧散していく。


 プロトは爆発の隙にダッシュの勢いにスライディングの加速を乗せ、遅れてジャンプを入力する。操作するキャラクターは慣性そのままにジャンプして飛び上がり、まるで空中でターンするかのような現実味のない軌道で敵の眼前に躍り出て、真横から一発。プロトに気付いた敵が振り向き、銃を構える頃にしゃがんだ状態でさらにもう一発。最初のイナリの削りと合わせてダメージは二百十を超える。赤アーマーでもない限り助からない。

 近距離で炸裂したグレネードの爆発音によって足音は掻き消され、そこからジャンプで距離を詰めたから敵も気付けるわけがなかった。至近距離で先に九十ダメージを浴びせられるのだから、赤アーマーだろうがどうしたって無理であった。


「倒した」


 プロトは一切の抑揚なく涼しげに告げる。


「もう一人は?」


 まだ緊張状態のイナリが訊く。

 それもそのはず、このゲームは三人で一つのパーティであり、三人倒し切るまでは戦闘状態が続く。


「もう全員倒したよ。コイツでラスト。コレ――紫アーマー拾って良いよ」


 「敵いるよ」と報告するより前に、当然プロトは敵を視認していて、遠距離からアサルトライフルで倒した敵が一人。急に味方がやられ動揺で動きが鈍っているところを追撃したのが一人、遮蔽の裏まで逃げられたのが一人。これで丁度三人だった。


「何?またぁ!?」

「ウチ、まだ二百ダメしか出てへんって」


 呆れているのか、怒っているのか、イナリは語気を強めて言う。


「わたし、まだ六十四です」


 続けて申し訳なさそうにホウキが申告した。


 その時点で残りは八部隊。プロトのキル数は十一。ダメージ数は二千を目前にしていた。


 収縮を続ける安全エリアの中心に向かってプロトたちは適当に走り、道中の比較的大きなランドマークに顔を出して索敵する。戦闘音が聞こえれば、何も考えず交戦ポイントに走り、何食わぬ顔で漁夫の利を得る。

 初ゲームコラボ配信、プロトの初エピ配信は、一発目からそんな乱暴なプレイで、一度も味方が倒れることなく、危うい場面もなく、勢いそのままチャンピオンになった。


「ちょっと、ウチなんもしてないて」


 とイナリは怒る。


「いきなりチャンピオン獲っちゃった。どうする配信終了する?」


 とホウキは冗談ぽく笑う。


 この時、配信は開始からまだ二十三分であった。


『ちょっと甘く見てたわ』

『一回目で3000ダメってマ?』

『プロくん強すぎ』


 Vtuberになってプロトはアカウントを新調していた。このアカウントでも一応、二十時間ぐらいはプレイしているのだが。


「(上級者帯じゃないとことマッチングしてるな)」


 プロトは流石に大人気がなかったと反省したが、


「(一発目だからイイよね。僕もアピールしたかったし)」


 と気持ちを切り替えることにした。

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