第15話 20:00配信予定
『【Awesome - PlayerX】初ゲームコラボ エピする(with黄金イナリ&空飛部ホウキ)【Vモンスターズ/試作機プロト】』
のタイトルで開始された配信には、直ぐに二千五百人近くの視聴者が集まった。
「配信始めたよ」
「こっちも」
イナリとホウキも各々に配信開始して、三人のゲームコラボを合計で一万人と少しの視聴者が見守っている。
声だけ出せればいいみたいに、適当に会話をしながら、コメントに指示に従って音量調整を行う。
『ゲーム音聞こえてる?』
『イナリ大きい』
『ゲーム音小さいかも』
エピは――というよりシューティングゲームにおいては足音が重要であるため、音声の調整が難しい。それはイナリやホウキも同じなようで、各々が自分のところの視聴者とやり取りしているうちに、それとなくバランスが整う。そうして、全員が静かになった隙を見て、プロトは口を開いた。
「――はい。Vモンスターズ四期生の殺人エイム人造人間、試作機プロトです」
「……ハイ!同じく、魔法少女の空飛部ホウキです」
「こんこーん。狐巫女の黄金イナリやでー」
プロトの自己紹介に、二人は明るく元気に続いた。
「いや、その。小学生の出席取るみたいのじゃないから。『ハイ、元気です!』って」
「えー、でも今のは完全にそんな感じだったよ」
ホウキがおどけるように言う。
「ハイ。先生、今日どのくらいやりますか?」
今日日、ここまでコテコテの関西弁を話す者がいるかとも思える、いつも以上に妙に上下するイントネーションでイナリが訊く。
子供特有の無邪気さ、間の抜けた感じをイナリなりに表現したのかもしれない。
案の定、四期生のコラボ配信は段取りなしで行われていた。
「んー、どうしよっか」
と、プロトは相槌を打つ。
土曜の夜のコラボ配信。この後予定も無いし、明日の配信も夜から。やっと今の環境でするゲームにも慣れて来て、さらには何年か振りのフルパーティでのプレイ。
――僕としては結構やりたいかもな。
そんなことをプロトが考えていると、ホウキは
「取り敢えず、勝つまででしょ?」
と強気に言った。
「ッいきなり耐久かよ!?」
プロトは勢いよく不安を露わにする。
しかし、それとは裏腹にイナリは威勢よく、
「おっしゃ」
と意気込んでマッチ接続のレディボタンを押した。
***
一マッチには三人組みのパーティが二十チーム参加し、恐らくは小さな飛行艇か何かに六十人が鮨詰めになってバトルロワイヤルの会場であるエリアまで空輸される。あくまでゲームであるから、飛行艇内の人間の過密具合とか運送環境にとやかく言うのはナンセンスである。
部隊ごとに飛行艇から各ランドマークへ降下して、段々と小さくなっていく安全エリアの中で乱戦を戦い抜き、生き抜く。早い話、五十七人を降してチャンピオンになる。
戦闘を有利に進めるため、戦うのに必要な物資を探し集めて、敵よりも有利なポジションを取るのがバトルロワイヤルゲーム全般に言える定番の勝ちパターンだ。
マッチ序盤では主に物資集めを行い、その過程でより多い物資またはレアリティの高い物資が落ちているエリアに降下出来れば序中盤のゲーム進行がかなり楽になる。他パーティだって同様に物資を集めているから、積極的に強襲して敵の集めた物資を奪うのも効率的だ。
交戦するならエリアが収縮する後半よりも前半の方が他パーティと混戦になるリスクを下げられる。しかし、あまりに早いタイミングで交戦すると、敵だって物資収集の途中であるため旨味が少ない。
生物濃縮のように勝ち残った強い捕食者たちの方が、よりレアリティの濃い物資を持っているのだ。
ただし、生き残って最後の部隊を目指すことが本来の目的であるから、戦闘をするにしても、混戦に巻き込まれて負けてしまうリスクと、物資収集によるリターンを考えて戦うのが肝である。
と言うふうにバトルロワイヤル形式のエピは一人称の対人戦シューティングゲームの中ではかなり奥深く、知識や論理的な判断が必要である。
――そういうふうにプロトは理解している。
しかし、今日この時に限っては関係ない。今日は単なるフルパのエンジョイプレイである。ガチガチにセオリーに従うよりも、楽しくワイワイとプレイした方が画面映えするだろう。プロトも極力頭を使いたくない。
逃げたり隠れたりはしない。接敵したら倒し切る。会敵すれば追い回す。単なる脳筋ヤンキープレイである。
「そこ敵いるよ」
雑談をプロトがぶった斬る。
「え?どこ」
談笑に脳のリソースを割いていたホウキは慌てるように言う。
「やった。もう一人ピンの岩裏」
「ウチ、そこ狙えるよ。三十入れた」
プレイヤーの体力は百ある。そこに最も重要な物資であるアーマーのシールド値がプラスされ、白色のアーマーなら五十、赤色のアーマーで最大百二十五の体力値が上乗せされる。
自動火器類から連射される弾丸は一発あたり十六ダメージ前後であるから、二発も当てれば三十ダメージ。
ワンマガジンには十八発、レアリティの高いマガジンを拾っているならそれ以上の弾数が装填でき、ワンマガジンあれば大抵の敵の体力とシールド値を削り切って倒すことができる。
プロトは隠れた敵に向かって走り、距離を詰める。そして、抱えるアサルトライフルのリロードをキャンセルして、ショットガンに持ち替えた。
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