第13話 初コラボ

 急遽デビューの決まった空飛部ホウキの初配信が行われたのは、プロトの初配信から丁度一週間後の十二月初週のことである。

 その後、さらに数日経ってから、四期生の三人全員が初配信を終えたことを記念する本当の祝勝会は、事務所ではなく配信上で行われた。

 祝いというより記念の席。全員のデビューを記念した初めての四期生コラボは裏で特に段取りも行わず、ぬるりと始まった。


「……始めました」


 配信主であるホウキがボソボソと言う。

 自分たちのところで配信はせずに配信上へ露出することはプロトにもイナリにも初めてのことで、二人は


「ツイートしよ」


「ウチリツイートするわ」


 と通話の向こうで完全にオフモードであった。


「リスナーのコメント見えてるよ」


 とホウキが言い、軽くコメントを拾い初めてイナリはようやく配信が始まっていることに気が付く。


「始まってるやん」


 ――さっきから始まってるが。


 お世辞にも話し上手とは言えなく、事あるごとに空回りしがちなプロトは、「コラボだと一人で頑張らなくて良いから楽だなぁ」と内心で思いつつ、イナリにツッコミを入れる。


「――ほんならプロトから自己紹介どうぞ」 


 いきなり配信モードに切り替えたイナリがプロトに唐突に言った。


「デビュー順じゃないの?」


 こういうのは一番慣れている奴がやるべきだ。この場合、三人で最もトーク力があるのはイナリだし、デビューもイナリが一番先なのだから、自己紹介はイナリからだろう、と思ってプロトは抗議する。

 しかし、ホウキまでもがイナリに乗っかって


「一番仕切れる人が仕切ってくださーい」


 と言い出す。


「はあ?」


 プロトは思わず配信外で話すみたいな砕けた口の悪さを垣間見せ、瞬時に配信中だと理解し、血の気が引いていくのを感じながら取り繕う。


「ええ、と。じゃあ――」

「Vモンスターズ四期生、人造人間Vtuber。配信マシーン、殺人エイムの試作機プロトでーす。次」


「こんこーん。Vモンスターズ四期生、狐巫女の黄金イナリやでー。ハイ」


「Vモンスターズ四期生の魔法少女。空飛部ホウキでーす。イェーイ」


 いつもよりテンションが高いホウキに続いて、イナリもイェーイとレスポンスをする。


『四期は人造人間と魔法少女とケモミミってマジでカオスだよな』

『マジカルマジカル〜』

『受け取ってくれ、俺のマジカルパワー』


 今日は短いホウキの自己紹介。彼女の自己紹介にはアニメの次回予告みたいな語尾があったはず。

 何だったか――。

 プロトはモバイル端末で再生しているホウキの配信コメントを見て思い出した。


「あれ?マジカルマジカルどうしたの?」


「いいから!変なこと思い出さなくて」


 ホウキは大きな声を出す。


「確かに、いつも言ってたやんな」

「あれ、可愛いんよなぁ」


 染み染みとイナリは言う。


「――はい。と言うことでね、今回は四期生が集まって何をするんですかー?」


 二人に追及されるとホウキはさっさと進行をして、都合の悪い話を逸らす。


「ウチ知らんで」


 ホウキの問いに対し、イナリはあっけらかんと言い放ち、プロトは黙っている。だから、またバツが悪そうにホウキは話し始める。


「えー、と。今回は四期生コラボで読む質問をSNSで募集したんで、それを読みながら雑談をする回になってます」

「――じゃあプロト、早速一つ目の質問行ってください」


「うん?結局僕が進行すんの?コレ」


 質問はまとめとくから、進行はどっちかがやってね。そういう約束だったはずなのに。そう思いながらもプロトは仕様がなく、今回の配信用にまとめたメモ帳を開くのだった。

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