第12話 空飛部ホウキ
大会議の入り口で、長い黒髪の毛先を指に巻いて弄び、ホウキは頬を赤く染めてスカートの端を手で握りしめている。
「結局その名前で決まったんですか?」
ホウキは恥ずかしそうに静かに抗議した。
「ダメだった?もしかして『虹色キララ』の方が気に入ってた?」
ホウキは苦虫を噛み潰したように顔を歪め、悔しそうに「グッ」と言葉にならない呻き声を上げる。
「……ホウキで良いです」
「そう。なら、良かった」
――パンッ。
「――きゃっ、何?熱ッ」
ホウキの後ろでスイレンがクラッカーを鳴らすと、色とりどりのテープが全てホウキの頭に横たわった。
「イェーイ。めでたいねー、今日は!」
ホウキの迷惑そうな反応を他所にカモは子供みたいにはしゃいでいる。
イナリは呆気に取られるプロトの横で、プロトのウニに舌鼓を打った。
広々とした大会議室の一角に人が密になる。プロトたちが座っている反対の壁にはプロジェクターから投影されたホウキのアバターモデルがデカデカと映し出されていて、その映像を背にするようにしてホウキは自己紹介をする。
中の人は黒髪の大和美人といった風貌そのままに、落ち着いた雰囲気とは対照的な、コスプレをしているみたいに取ってつけたような魔法少女のファンシーな衣装を身に付けている。
本名を
プロトはある日目が覚めると改造手術を施されていて、配信を余儀なくさせらた殺戮マシーンならぬ配信マシーンという設定しか用意していなかったため、配信する前からきちんと設定を考えている姿勢にプロトは感心していた。
カモはホウキの話に補足して、
「ホウキさんは卒業してからという話だったんだけれど、本人からの意向もあって皆んなと一緒にデビューする形になったんだ。こう言うのをつらつら言うのもどうかなと思うんだけど、私は皆んなに正直でいたいから言うとね。実は魔法使い繋がりでホウキさんのお父さんと知り合いでね、私の方からスカウトしたんだよ」
と語った。
続けてカモは、
「本物の魔法使いではあるけど、ホウキさんは異世界人ではないからね。だからプロトくんは是非仲良くしてあげて」
と告げ、「じゃあ、ほらホウキさんの分の寿司もあるからね」と言った。
「ホウキちゃん、苦手なもんある?あったらウチが食べたるからな」
そこからはホウキ歓迎会が始まった。
歓迎会が始まってもプロトに出来ることはない。昔からその場で初対面の人と仲良くするというのが苦手であるし、特に同年代の人間にはトラウマみたいな恐怖感があった。変わらないイナリの大っぴらな態度がいくらか緩衝材にはなったものの苦手意識はあるままで、自分から話し掛けるなんて大それたことは出来なかった。
しかし、「あとは自室で食べますね」なんて言って寿司を持って席を立つのも和やかな雰囲気を壊してしまうと思ったために、時間を潰すようにちびちびと寿司を食べていた。
歳下相手に出来れば舐められたくないというほんの少しのプライドと、こういう場で敢えて話さないのも印象が悪いと思い、イナリやカモがホウキと話すところへ混ざるようにして何とかコミュニケーションの体を守った。
しばらくして、歓迎会の雰囲気が単なる座談会になり、囲い込むみたいなムードから抜け出して来たホウキがプロトの隣に座った。
「あの、ヒーローさんですよね。わたし、動画見てました」
ホウキは囁くようにプロトに告げる。
「僕のこと知ってるの?」
「実はカモさんにヒーローさんのことお伺いして急いでデビュー決めたんです」
「ヒーローさんのこと、知ってからまだ半年ぐらいしか経ってないですけど、わたしも結構色んな対戦ゲームするのでッ」
ホウキは目を輝かせながら、前のめりで距離を詰めてくる。
プロトはそれにたじろいで、気まずそうに乾いた笑いで場を繋ぐ。
「へぇ、そうなんだ。……じゃあ、何か勝負する?」
「はい!デビューしたらゲームコラボしましょう!」
ホウキはふんふんと鼻を鳴らして興奮していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます