第50話

「は……?」

壁を越えたリュウガの目の前に広がっているのは、まさに人間たちの栄華。

人間たちが住む、大きな屋敷が何軒か建っている作りかけの街。

森林を伐採した地面を、人間が乗っている機械が往復している。

「……げほっ」

排気ガスが喉を直撃する。遠くに工場も見える。

歪な魔族の死体が道端に落ちている。リュウガはそれに近づこうとするが、あるにおいに気づく。

「魔力暴走か……」

大量の魔力を発している死体。あっという間にそれに異形の魔族の子どもたちが群がった。恐ろしい音が聞こえ、思わず目を逸らす。

「人間!?」

その中の何人かが駆けて来る。何人かは顔から血を流している。まだ新しい傷だ。異形の子どもたちは、リュウガの着物を引っ張った。

「たすけて、たすけて!」

「……」

リュウガがしゃがんで子どもたちに目線を合わせる。

「すまん。我には何もできん」

そして深々と頭を下げた。

子どもたちは頭を下げられることの意味が分からないようで、互いに顔を見合わせる。

「何もできんのじゃ……」

魔力回路に異常がある魔族、そして人間は、長く生きられない。大人になる前に体に魔力が溜まって命を落とす。

(……オヒナ、)

リュウガは立ち上がり、早足でその場を離れた。

(我はまた、誰かを食ってしまうかもしれん)




壁の外、ザックとテリーナは黙ってリュウガを待っていた。

「心配なのだわ」

「俺も……」

「リュウガは本当にあの中に行ったのか?」

「「わっ!?」」

ソンリフだ。音もなく2人の間に入っていたらしい。

「いや、マジか。怖いが俺も行くしかないか」

「あんたも行くのか?」

「友人を黙って地獄に送り出せるかよ」

「私も行くのだわ!」

テリーナが手を挙げる。

「あんたたちは危ないからやめとけ。俺は魔族だから抵抗できるが、人間のあんたたちは……」

「大丈夫なのだわ」

「自分の身くらい自分で守れるさ」

2人は行く気満々だ。

「……無知とは恐ろしいな。だが、友人の友人たちか。俺が守らないといけないのは確かだな。よし、行こう!」

ソンリフが瓦礫の隙間から中に入る。ザックとテリーナもそれに続いた。



〔ヨウユウという男を探している〕

〔フートテチ語か。今どき珍しいな。ヨウユウなら人間と商談をしているよ。あっちにいるのがそうだ〕

リュウガは軽く頭を下げ、人間の住む中心街に向かう。

「気分を上げる薬だよ〜。カラスやサギ系によく効くよ〜」

青白い顔をした、翼の生えた魔族が白い粉の入った袋を奪い合っている。

それを横目に、リュウガは無心で歩く。

(地獄じゃ)

道端で倒れ込んでいる魔族をもう何人も見た。血を吐き、苦しみながら死んだことは明白だった。あれはああなると分かっていても、やめられない薬なのだろう。

(……いかん、今は何もできん。我はただ地図を求めに寄っただけじゃ)

「リュウガ!そっちはダメだって!」

先程聞いた声がして振り返る。息を切らしたソンリフがリュウガの肩を掴んで揺さぶった。

「お前が何をしに来たかは知らないけどさ!人間に逆らったらヤバいんだって!」

「人間は関係ないわい。我はある魔族の男を探しておるだけじゃ」

「え、そうなの?」

「そうじゃ。危ないことなぞせんわ」

「その男って誰なんだよ?」

「ヨウユウじゃ」

ソンリフが後ずさる。

「ヨウユウ?奴隷商売をしてる男じゃん!まさか、奴隷を解放しろなんて言うんじゃ、」

リュウガはそれには返事をせず、歩き始める。

「や、やめとけって!」

「もう着いて来るな。ニチジョウで待っておれ。時間がないんじゃ」

「リュウガ……」

ソンリフの小さい声が聞こえたが、もう振り返らない。

(こんな胸糞悪い場所、おぬしだって長く居たくないじゃろう)

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