第48話

リュウガがしっぽを隠した人間体になり、ブンテイで買った着物を羽織る。

「窮屈じゃが、我も人間のフリをして忍び込む」

「フートテチ北……ナモナキは魔族が住んでいるんだろう?しっぽを出していてもいいんじゃないか?」

「魔族が奴隷にされておる場所じゃぞ。何が起きるかわからん」

「何が起きるんだ?」

「ふん、我も知らんわい!あんな場所、好き好んで行く魔族なぞおらんからのう」

リュウガが長い髪を結っていた紐を解く。赤毛が胸に落ちた。


「おお!やっぱりリュウガじゃん!?」

「む?」

北から紺の短髪の男が手を振って駆けて来る。

「俺のこと覚えてるか?270年振り!」

「……」

リュウガは怪訝な顔をしている。昔の知り合いらしいが、顔を覚えていないらしい。

「忘れたのか!?薄情なヤツだな」

「……〜〜〜」

リュウガが低い声で何かを話している。普段の彼の……独特な訛りのある発音のストワード語ではない。

「なんて言ってるんだ?」

「分からないのだわ。でも多分フートテチ語かしら?」

暫く知らない言語で話していたリュウガだが、突然吹き出して男の肩を掴んで笑った。

「ソンリフ!おぬしか!ガハハ!何も変わっておらんからビックリしたわい!」

「お前は少し皺が増えたか?でもあんま変わらないな。龍族も老けない種族だもんなぁ」

「え、ええと、あんたは……?」

ザックがおずおず会話に入ると、ソンリフと呼ばれた男が笑顔を見せた。

「俺はソンリフ。ニチジョウ出身の鬼族だ。リュウガとは生まれたときからの腐れ縁でな」

「270年前まで一緒に暮らしておっただけじゃ。それ以降は顔を見たことがなかった」

「そうそう、お前どこ行ってたんだよ。フートテチからいなくなったって聞いたからさ、必死で探したぜ」

「……ふん、どこでもいいじゃろう」

(あ、言いたくないんだな。洞窟で引きこもってたこと)

「まぁ無事ならいいけどさ。あ、お前たちは人間か?」

「私はテリーナなのだわ。人間なのだわ」

「俺はザック。同じく人間だ」

「ふーん。人間たちと仲良くしてるのか」

「我の子分じゃ」

「子分か。なるほどな」

「納得するなよ、違うからな?」

「子分じゃないのだわ!」



「ソンリフ、あんたもこれからナモナキに行くのか?」

ザックが聞くと、ソンリフが首を横に振った。

「俺はあんな恐ろしいところになんて行かないよ。ただリュウガを見かけたから声をかけただけだ。……おい、リュウガ、まさかお前」

「我はナモナキに向かっておる途中じゃが?」

「やめとけ!捕まったら大変だぞ。お前は希少な龍族だ!人間たちが欲しがる!!」

ソンリフが少し背伸びをしてリュウガの着物の首元を掴む。

「おぬしには関係ないじゃろう」

「っ、関係ないかもしれないけどさ!行くのは勝手だけど、心配だろ!」

ザックは意外に感じた。リュウガは他人には常に不遜な態度だ。上から物を言うし、過去を振り返って感傷に浸る様子は見せない男だ。だが、彼にはこんなに心配をしてくれる友人がいた。

「心配だからさ……。約束しろよ。無事に戻って来たら、ニチジョウに寄れ。俺はそこで待ってる」

「酒を用意して、か?」

リュウガがニヤリと笑う。

「最高級のをな」

ソンリフも口角を上げた。

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