第8章『ナモナキ』

第47話

〜シャフマ地区 東〜


「所長が見つかった!?本当か!?」

マネージャーに駆け寄る。マネージャーは書類を捲りながら苦笑した。

「そんなに会いたかったか?あの人に」

「会いたいとかじゃねェよ、単純に心配してたんだ。今どこにいるんだよ」

「フートテチからストワードに向かっている。大丈夫だ、お前の話も聞いてくれるよ。それより今はライブだ。お前を待っているファンがいる。早く舞台に上がりなさい」

「……うん」

ノマは数秒目を閉じ、深呼吸する。目を開け、笑顔を作り、ステージに飛び出す。

大きな瞳がライトに照らされ、明るい海の色に輝いた。マイクを持ち、叫ぶ。彼女の声はいつだって澄んでいるのだ。




〜フートテチ地区 北〜


「お、おい……なんだよこの荷物の量は。自分で買ったものは自分で持ってくれよ……」

ザックが息も絶え絶えに抗議する。

「もぐもぐ……だから歩きながら消費してるのだわ」

「そうじゃぞ。もぐもぐ……ふぅっ、美味いのう!さすがフートテチの飯じゃ!ガハハ!」

「食べ歩きするなら自分で持てって……おっと!?」

ザックが急ブレーキをかける。沼に足を踏み入れるところだった。

「な、なんだこれ。泥沼だぜ」

「ここから東は蛇系の魔族が住んでおるからのう。水地になっておる」

「すごいのだわ!なんだかブクブク動いているのだわ?」

テリーナが手で泥に触れようとする。

「触れるな!」

リュウガがそれを制止した。

「蛇系の魔族は毒を出す。泥に毒を含ませて縄張りを示しておるのじゃ」

「ど、毒?恐ろしいのだわ!」

「そんなに縄張り意識が強い魔族がいるのか?ソクジュやブンテイに住んでいた魔族は自分以外の魔族や人間とも仲良く話していたじゃないか」

リュウガが目を伏せる。

「……フートテチは、東に行けば行くほどに人間や他の魔族との関わりを持たんようにしておる魔族が多くなる。縄張り意識が強い魔族は、ストワードやシャフマから離れて暮らしておるのじゃ」

「『人魚の楽園』は……」

「今はどうなっておるか、検討がつかん。我が訪れたのは250年前の話じゃからのう」

「追い出されるかもしれない、かしら?」

テリーナが不安げに言う。リュウガは「じゃから検討がつかんと言ったじゃろう。行くしかない」と言った。

「ここからの旅路は辛くなるじゃろう。ザック、我ら3人は北に向かうとゾナリスたちに言ったが、状況によっては計画を変えて我一人で行っても良いと思っておる」

「どうして?」

「北には国はない。そこにあるのは、地獄じゃ」

「「地獄?」」

「今まで通ったフートテチには統治者がおって、文化を発達させ、魔族たちが生活を営んでおったじゃろう」

2人が頷く。

「しかし、北にはそうした統治者はおらん。完全な無法地帯じゃ」

「無法地帯!?お、お父様はそんな場所作らないのだわ!」

「残念じゃが、大陸統一されてから20年で出来た無法地帯じゃからのう。おぬしの父の怠慢ということに……」

「なっ……!」

テリーナがリュウガを睨む。しかしリュウガはそれ以上おどけなかった。

「冗談じゃ。この場所は人間には『知られていない』。20年前には誰も踏み入れたことの無い森林だったからのう。手が入るのはこれからじゃろう」

「大陸統一して何か変わったのか?今は魔族が住んでいるんだろう?」

「何が変わったのかは知らん。我もおぬしたちとこれから知ることになるのう。ただ1つ分かっておるのが、『奴隷商売』が存在しておることじゃ」

リュウガが南を指差す。

「あっちはニチジョウじゃ。滅多なことがない限り、怪我をすることはない地域じゃ。おぬしたち、今からでもゾナリスたちと合流しても良いぞ」

「……」

ザックとテリーナが顔を見合わせる。

「私は行くのだわ」

「俺も行くよ。沼を見て確信した。『人魚の楽園』への地図は必要不可欠だ。ここであんたと進まない選択はない」

「……ふん、ならば足手まといにならんようにしっかり着いてくるんじゃな」

リュウガが北に向かって歩き出す。2人はそれを早足で追いかけた。

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