第44話

フートテチ中央、ブンテイ。

ソクジュと違い、皆が人間。

ではなく。魔族も人間の姿をしている地域だ。

「魔族、魔族、魔族、おっ、今すれ違ったのも魔族じゃ」

「すごい!ソクジュと同じくらい魔族がいるんですね」

「リュウガサンは何でそんなに即座に見分けをつけられるんだ?見た目は人間だろう?」

「交尾ができるかどうかはすぐ分かるわい」

「こ、こここここ交尾!?ハレンチなのだわ!!」

「フェロモンみたいなものですか!?」

「まぁそんな風に理解しておけば良いわい」

「へぇ、魔族って魔族としか交配できないんだね」

ゾナリスが言うと、リュウガの表情が曇る。

「出来ないことはないわい。子を作るのはかなり難しいが……」

「あっ、センベイ売ってるよー」

ヴァレリアが煎餅屋を見つけた。ラビーが走る。

「センベイだー!本物ぉ?ね、ね、ね、もしかして偽物ぉ?」

「コラ、ラビーぼっちゃん。失礼でしょ」

ゾナリスがラビーの頭を軽く叩く。大袈裟に痛がるラビー。

「ははは、構わんよ。お客さん、シャフマ人だね?煎餅は見たことないだろう。仕方ない仕方ない。ほら、一枚試食してみな」

ラビーが目を輝かせて煎餅を食べる。

「おいしぃー!!リスおじ、全部買ってぇ!」

「そんなに美味いのか?ラビー、それ半分くれ」

「だめぇ!おにぃちゃんにはあげなぁい!」

ラビーが大口を開けて一枚全部食べてしまった。

「あー!おいおい、俺も試食したかったぜ……」

「この煎餅詰め合わせセットください。ザックぼっちゃんもラビーぼっちゃんも今度は喧嘩しないで食べてね?」

「「はーい……」」


「おお、煎餅じゃな。ニチジョウのお土産もいろいろ売っておるのう。うむ、美味い」

リュウガが煎餅をバリバリ食べる。ゾナリスが他の仲間にも一枚ずつ煎餅を配った。

「デヴォンも一枚食べ……あれっ、デヴォンがいない」

「!」

ラビーが固まる。

「デヴォン、トイレ行ってくるって言ってたけどー?すぐ戻ってくるんじゃない?」

「だ、だよな!まさか突然いなくなったりしないよな!?」

ザックが取り乱している。ゾナリスが首を傾げた。

「どうしたの、ザックぼっちゃん。あ、さては喧嘩したなー?」

ヘラヘラ笑う。ザックは首を横に振った。

「実は今朝、ラビーが予知で……」



「そんなに正確なのかしら?その予知は」

「疑うのは無理もないが、ラビーの予知は間違っていたことがない。残念だが……」

「別に良いじゃろう。放っておけば」

「え?」

ザックがリュウガの方を見る。

「本人の自由じゃろう。そもそもデボンは人魚の楽園に行く理由はないんじゃ」

「……」

「ザックとゾナリスはアレスとアントワーヌとやらに薬を持ってくるように言われ、我は人魚の楽園を知っておるから助言をするために、テリーナは人魚たちに事情を説明するために。他は何の理由もないんじゃ」

「ウチはししょーと修行するためだしー……」

「僕はなんか楽しそうだからぁ?」

「同行する理由なぞなんでも良いが」

ザックは「それもそうだな」と小さく言った。デヴォンには同行の義務がない。紛うことなき事実だ。

「予知通りになっても、無理に引き止めないようにするよ」




「いろんなものがあって目移りしちゃうな。でもそろそろザックのところに戻らないと」

商店街を歩くデヴォン。と、どこかで見たことのある少女とすれ違った。

「あれって」

地下で見た銀髪の少女だ。デヴォンが追いかける。路地裏。白いワンピースを着た少女。

「ね、ねぇ、君……!」

少女が振り向く。暗い中でも海のような色の瞳は輝いていた。

「所長!」

「あぁ、ええと、所長だよ!僕!」

少女が無邪気にデヴォンに抱きつく。

「良かった!やっと会えた!声も出るようになったんだね。研究室に戻って来て?みんな待ってる」

「……君が無事で良かったよ」

「所長?戻ってきて。お願い」

少女はデヴォンの背中を強く抱きしめた。

「私を殴っていいから、戻ってきてよ……」

「……」

「所長、私、名前を……」

少女の目から涙が落ちる。

「名前、また忘れちゃった……ごめんなさい……」

突然、黒い雲が辺りを覆う。デヴォンは驚いて少女から腕を離した。

「な、なんで突然雲が?君の魔法?」

偶然とは言い難いほどのスピードで雲が集まる。少女は泣き止まない。

「わ、私、所長の名前も自分の名前も覚えてない……」

「いいから!大丈夫だから!魔法を止めて!」

「殴らないで、殴らないで……所長……っ」

雷が街の建物に落ちた。住人の悲鳴。

(何これ。ザックの魔法みたいな……)

少女は完全に取り乱している。デヴォンは何とか落ち着かせようと、もう一度少女を抱き締めた。

「いいよ、覚えていなくても。大丈夫、落ち着いて……」

(こ、これでいいのかな)

少女の息が調ってきた。デヴォンは苦笑する。

「……ごめん」

「大丈夫。殴らないからね」

「うん」

(本気で所長を探そう。じゃないとこの子が可哀想だ)

デヴォンは深呼吸をする。

「あのさ、聞きたいことがあるんだけど……僕の、所長がしたいことって何か覚えてる?あ、覚えてたらでいいよ!無理に思い出そうとしなくても、」

「それはわかるよ」

少女がデヴォンの耳に触れる。未知の感覚に思わず目を閉じてしまうデヴォン。




「所長がやりたいことは……」



「え……」


デヴォンが目を見開いた。

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