第8章『ブンテイ』
第42話
〜シャフマ地区 アレストの酒場〜
「母さん!始まっちゃうよ!」
スーザがルイスの手を引っ張って外に出る。
「そんなに急がなくてもいいわよ」
「良くないよ!早くしないとノマの顔が見れないもん!」
シャフマ王宮跡地。ノマのライブはそこで行われる。
「あぁっ!もう始まっちゃった」
ノマの声がマイクに乗って聞こえる。
『俺の歌を聞きに来てくれてありがとな!』
「ノマー!!!」
スーザは一人で会場に走った。ルイスも早足でそれを追いかける。外には人集りができていた。
『俺、今日も皆のために歌うぜ!皆に歌声を届けるんだぜ!』
会場に着いた。大きなテントだ。半分外のような場所。ノマがその真ん中で手を振っている。
「スーザ、ノマは男なの?」
「違うよ。女の子だけど、男みたいに喋るの!」
「ふーん?」
「母さんは昔の人だから良さが分からないよねー」
「自由で良いと思うわよ。それだけだけれど」
「もうっ!萌えを何にも分かってないんだから!」
『20年……』
ノマがマイクを握り締め、俯いた。
『20年しか、経ってねェんだ』
会場がシン……とする。
『俺たちの生活が脅かされたのはたった一度の戦争』
『俺たちの家族が、俺たちの仲間が』
『たくさんいなくなった、あの戦争』
『シャフマの王子が起こした、たった一度の戦争!!!』
(……!?)
ルイスが目を見開く。
『俺はそれを許さねェ、絶対に、許さねェ』
「そうだ!そうだ!ノマちゃんの言う通りだ!」
「ノマちゃん、シャフマを救ってくれ!」
「母さんは戦争でしんだんだ!」
「俺の仲間は騎士団にころされた!」
(何よこれ、まるでアレストが悪いみたいに……)
『でも大丈夫だぜ!俺がこの歌で全部癒してやる!俺は皆のために歌う!』
『俺の歌は剣じゃねェ、槍じゃねェ、黒魔法じゃねェ……!』
『俺はただ皆のために歌う!聞いてくれ!!俺の歌を……!!』
彼女の名は、ノマ。18歳。
戦争を経験していない、少女である。
彼女はただ皆のために歌う。戦争の傷を癒す歌を。
男のような格好をして、いや、まるで童話に出てくる『王子』のような格好をして。
『砂時計の王子』を糾弾する歌を、ただ歌い続ける。
ライブ後、ファンと話していたノマの元にスーザがワープ魔法で飛んだ。
「ノマちゃん!すごいライブだった!これからも頑張ってね!」
「……」
ノマが後ずさる。
「ノマちゃんの前で魔法を使うな!シャフマ人が!」
周りのファンがノマの前で腕を広げる。
「え、魔法って。ただのワープだよ?炎とか雷じゃないじゃん」
「知らないのか?シャフマ人は遅れているな」
ストワード語だ。熱心なファンはストワードからシャフマまでノマに着いて来ているのだ。
「魔法は何でも毒なんだよ。使っても浴びても『魔族』に食われちまう」
「えっ」
「ノマちゃんが野蛮な魔族に食われちまったらどうするんだよ!シャフマ人は離れろ!」
「わ、私、そんなつもりじゃ……」
「いいから離れてくれ……。俺は魔法が嫌いだ……」
ノマが怯えている。スーザは 「ごめん」と言って、走って家に向かった。
「ノマちゃん、大丈夫?」
「シャフマ人のことも救おうってのか?やめときな!」
「毒が体に溜まったらノマちゃんがしんじゃうよ!」
「お、俺は……」
「俺はシャフマ人のためにも歌う……」
「俺は皆のために歌うアイドルだから……」
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