第36話

「うぇっ……んおおっ……!!!」

「もう少し、もう少しですから……!」

「んぐっ……苦しい……っ」

「もう少し我慢してください!リュウガさん!」

「ぶはっ!ま、まずいわァ!げほっ、げほぉっ!」

たまらず咳き込むリュウガ。デヴォンは頭を抱える。

リュウガが腹が減って動けないと言うからストワード中央のレストランを巡ってみたが、すぐに料理を吐き出してしまうのだ。

(前からストワードで買った食べ物を全然食べようとしないと思ってたけど、ここまで偏食だとは……。早くザックたちと合流したいのに、食事が終わらなくて足踏みしてるなんてーっ!)

「お客様……」

店員のジトリとした目付き。デヴォンは冷や汗をかく。

「あっ……僕が片付けます!お代もしっかり払います!お、オジサン!帰るよ!」

「クッソまずいわ……なんじゃこの料理は……バレリアが焼いた魚の方が量も質も上じゃな……」

「ちょ、ちょっと!あはは……すみません、僕のオジサン、なんか最近舌がボケて来ちゃったみたいで……ははは……」

デヴォンがテーブルを拭く。その間もリュウガは料理に文句を言っている。

(なんで僕がこんなに損な役回りをしなくちゃならないんだよ〜!)


逃げるように店を出た二人。大統領の家を目指してとぼとぼ歩く。

(はぁ……財布が空になりそう……。ただでさえシャフマとストワードを往復して貯金がないっていうのに……)

「ふんっ!ストワードの人間は舌がイカれておるわ!!シャフマの焼きそばの方がマシじゃ!」

「リュウガさん、焼きそばしか無理なら先に言ってくださいよ……」

「違うわい!我は何でも食う。ストワードの料理が全部不味いだけじゃ」

「そうかなぁ……」

「我は舌が肥えておるんじゃ。我の故郷にはのう、焼き鳥、寿司、うどん……たーくさん美味いもんがあるんじゃ!デボンも食えば分かるわい」

「食べることあるかな……フートテチへ行く予定はないし……もちろん行きたいですけど」

魔族がたくさんいるんですよね!?目を輝かせるデヴォン。

「あー、腹が減ったわい。早くバレリアの作る焼き魚が食いたい……おっ?」

向こうからオレンジ髪の少女が走ってくる。リュウガが大きく手を振る。

「デボン!!バレリアじゃ!ザックもおるぞ!」

「え!ザック!?ほんとだ!みんないる!」

デヴォンが駆け出す。リュウガも一拍遅れて足を進めた。

「みんな無事だったんだ!本当に良かった……」

「デヴォン……」

デヴォンがザックの腕を掴んで再会を喜ぶ。しかし、すぐに異変に気づいて手を離した。

「何この火傷……」

ザックの右手は火傷跡が残っていた。

「あぁ。これは……。大丈夫。ラビーに白魔法をしてもらったからな。あんたがいたらあんたに頼んだんだが」

「う、動くの……?もう痛くない?」

デヴォンが心配そうに右手を見る。ザックが苦笑する。

「少し痛いだけさ。指は問題なく使える」

「そう……」

デヴォンがザックの右手を優しく握った。

「ごめん、僕がいれば……跡なんて残さなかったのに」

「……いいんだ。その言葉が聞けただけで、あんたにまた会えただけで。充分さ」

「?」


(デヴォンじゃない。あの男は、デヴォンとは違う男だったんだ)

(……治れよ。白魔法は患者の精神に影響を受ける)

(俺が『デヴォンじゃない』と確信すれば、指も動くようになるはずだ……)




〜ストワード中央駅〜



ゾナリスがデヴォンとリュウガにもこれからの旅の説明をした。

「ゾナリスから説明があった通りだ。俺とラビー、ゾナリスは大統領の娘テリーナの体を治すために『薬』を手に入れる。これから東の果てに向かうことになった。あんたたちは自由にしてくれ。元々着いてくる義務はないからね」

「もちろん僕も行くよ。フートテチには行きたいと思ってるんだ」

デヴォンが真剣な瞳で言う。

「……バレリア。おぬしはどうしたいんじゃ」

「行くに決まってるし?」

ヴァレリアは髪を弄りながらサラッと言った。

「……分かった。我も行こう。東の果てには行ったことがある」

「え!?」

「それは頼もしいぜ!」

「リュウガさん!そのときの話詳しく教えてください!」

「うるさいのう。300年も生きておれば大陸横断くらいしておるわい。しゃふまには行ったことはなかったが」

「横断じゃないじゃぁん。でもぉ、頼もしい〜!ね、ね、ね、東の果てにはぁ、どんなお菓子があるのぉ?」

「ラビー、遠足じゃないんだよ?」

デヴォンがヤレヤレと腕を広げた。

「じゃあ機関車に乗ろうか。とりあえずフートテチの入口まではこれで行けるからね」

「わぁい!機関車だぁいすきぃ〜!」

「だから遠足じゃないんだってば……」


「待つのだわ!ザッカリー!!!」


「ん?」


女の声に振り返る。

金髪碧眼、小柄な少女が仁王立ちしていた。


「え?テリーナサン?病気なんだろう?家に戻らなくていいのかよ?」

「許可は取ったのだわ!」

「……家出の?」

テリーナが笑顔で大きく頷く。あのアントワーヌが許可を出したのだろうか。本当に?

「と、いうか……私がいないと東の果てで『薬』がいただけないかもしれないのだわ……と、アレス様が」

「それは一理あるのう」

リュウガがザックの肩に手を置く。

「『薬』は貴重なものじゃ。正当な理由がない限り、向こうも渡そうとはしないじゃろう」

「そうか……」

ザックが右手を差し出す。

「じゃあよろしくな、テリーナサン。一緒にフートテチの東の果てに行こう」

「! ……はい!行くのだわ!」

7人は揃って機関車に乗り込んだ。

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