第25話

〜蒸気機関車内〜


「……これなら、すぐに中央まで行ける?」

「!……あぁ。本当に、ありがとう……。そして、すまなかった。全て俺の責任だよ……。ぼっちゃんたちの安否も分からなくなるなんて……」

「……」

「『熱病』か。ストワードではそんな言い方をされているんだね」

「オジサン、何か知ってるの?」

ヴァレリアの瞳が真っ直ぐに向けられる。

「熱病の原因は『封印』だ。魔力のね。これがすごく危ないものだと、俺も知らなかった」

「魔力の封印?」

ゾナリスが頷いて続ける。

「人間にはたくさん魔力をため込める人と、そうでない人がいる」

「あぁ、師匠に少し聞いたことある」

「魔力をため込める人は、シャフマ人とフートテチ人に多い。その人たちにとって、この『封印』はとても便利なものだと宣伝されている」

「……?」

「20年前……統一国家になって、魔族と仕事をする機会が増えた人たちが考え出した方法。それが『封印』なんだ」

「魔族は人間の魔力を食べる、から……?」

「魔族を怖がった人たちが、魔力を体の中に閉じ込めておくことにした。そうすれば食べられる心配がないってね」


「俺もそう言われて措置を受けていた。アレスさんに措置を受けろと言われたわけじゃないけど、何かあってからでは遅いと」

「でも、それがこの結果だ。ため込みすぎた魔力が、放出できずに暴走する。そして動けなくなり、魔族の餌になるのを待つしかなくなる」

「軽率だった……。魔力封印はこんなに恐ろしいものだったんだ……」


ヴァレリアはノマのことを思い出していた。何も知らない、魔法も使ったことがないと言っていたが、彼女は大陸を横断するようなアイドルだ。措置を受けていてもおかしくない。

魔族に食われないようにするための『封印』が、逆に暴走して魔族を呼び寄せてしまうようになるとは。

(そんなことをする人なんて一人しかいないし。絶対ウチの……。やっぱウチのことが狙いだったんだ……オジサンを餌にしたのも、ザックたちを連れ去ったのも、ウチを狙ったから……)

「げほっ……。座っていたら、だいぶ良くなってきたよ……」

「無理しないでよ。ウチなら大丈夫だからさー」

「いや、ヴァレリアちゃん。君は名前を名乗ってしまったから、心配……」

「いいし!……そんなことより、オジサンの命とザックたちの救出の方が優先度高いし!」

「……そっか。優しいんだね、君は」




〜地下〜


「ふぅ……出口が分からないな。真っ暗だよ」

デヴォンは迷っていた。

「さっきの人たちに道を聞けばよかった。でも所長が迷子なのも変か。うーん」

キョロキョロと辺りを見回す。

(あそこに部屋がある。誰かいるかも)

部屋の扉を開け、恐る恐る中に入る。

「……誰かいますか?」

返事がない。誰もいないのか。

(所長室って書いてある。僕の『お兄ちゃん』の部屋?)

部屋は殺風景だった。生活に必要なものしか置いていない。デヴォンは自分が住んでいた小屋を思い出す。

「白衣だ」

兄は研究員なのだろうか。服に触ると、大量の砂が落ちた。

「わっ……」

よく見ると、床にもたくさんの砂が落ちている。

(ここはストワードなのに、なんでシャフマの砂が落ちているんだろう)

砂の研究でもしていたのだろうか。

(冷蔵庫も、洗濯機もない。共同のものを使っていたのかな。……あ、地図だ)

どうやらこの地下施設の地図らしい。

(あー、向こうに地上への出口があったんだ)

デヴォンは道順を覚えた。

「……ここはまだ気になることが多い場所だけど、先にザックたちと合流しなきゃ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る