第23話
「ウチのせい!ウチのせいだよ!師匠っ!」
ヴァレリアが涙を流しながらリュウガに駆け寄る。
「あの男か?あの男がおぬしを追いかけて来たのじゃな?」
「......そ、そうとしか、考えられないし!あいつしかこんなことできないじゃん!」
リュウガの変化が解けた。魔力が足りないのだ。
「し、師匠......あいつに捕まったらダメ......!逃げよ......」
巨大な怪物が攻撃の準備をする。リュウガがヴァレリアの前で腕を広げた。怪物に背を向けて。
「ならば、我がおぬしを守るしかないのう!」
「師匠っ......!!!」
攻撃がリュウガの背に降り注ぐ。血を吐き、倒れる。
「......我は無事じゃ。まだやれる」
リュウガが立ち上がった。ボロボロの体で。
「言ったじゃろう。魔族は人間よりもずっと強いのじゃ。さぁ、走って逃げろ!ゾナリスを連れて!!」
ヴァレリアは涙を拭って頷き、ゾナリスを抱えて走り出した。
「はぁ......っ......。まだまだ......」
怪物を睨むが、魔力が足りない。目の前が霞む。
「まだまだ、じゃ......」
どさり......。2mの体が、地面に倒れた。
「師匠が、連れ去られた......」
ヴァレリアのミント色の瞳から大粒の涙が溢れて止まらない。
「みんな......あいつに捕まった......」
「っ......ヴァレリアちゃん」
ゾナリスが目を覚ました。
「オジサン、熱が酷いから黙ってた方がいいよ......!」
「......アレス『ト』の旦那に......『ザッカリー』のことを......伝えて......」
「アレスト!?その名前って......『砂時計の......』!」
「彼は、ストワード中央にいる......。アントワーヌと共に......」
〜ストワード中央 ストワード第一ホテル〜
「ザックが来ていないか?」
「私は知らないですよ」
同じ紫の瞳。父と子の視線がぶつかる。
「カルロなら知っていると思ったが、宛が外れたね。俺に似てプライドが薄いザックのことだ。弟のあんたを頼ると思っていたが」
カルロが眉を顰める。
「はぁ......。兄貴は指名手配が取り下げられたんでしょう。私には関係ないですよ」
「うん。それはさっき知った。ゾナリスが上手くやったらしい。さすがだぜ」
アレストがワイングラスに入った酒を飲む。
「......まぁ、正直あんたしか聞く人がいないのさ。俺は顔が広いわけじゃあないからね。困ったね」
「私に言われても困ります。指名手配が取り下げられたのならば、父さんはもうザックに会う必要もないでしょう。と、いうか。アントワーヌさんには他の用事を言われていたんですよね?」
「カルロ......あんたのそういう真っ直ぐに事実だけを言うところ大好きだぜ。本当に相棒に似て、俺を悦ばせてくれるねェ......」
アレストがうっとりと目を細める。
「気色が悪いです。実の息子ですよ私は」
「それそれ!!俺はそういう息子が欲しかったのさぁ!いやァあんたたち双子が無事に生まれて良かったぜェ!」
「あまり騒ぐようならば出禁にしますよ。アントワーヌさんのところに急いだ方が良いと思いますが」
ギャハギャハ笑うアレストを冷めた目で見つめるカルロ。
「......フェリシ......テリーナサンがおかしくなったことは知っているよな?」
一頻り笑った後、声のトーンが下がる。この真剣な父を、カルロは知っている。
「はい。個室で話しましょうか?」
「いや、今はいい。まだそれしか分かっていないのさ。分かったらあんたにも報告しよう。協力してもらうかもしれない。ゾナリスと一緒にね」
「分かりました」
カルロが軽く頭を下げる。アレストは目を細め、小さく息をついた。
「ザックの手がかりがなしならば、今からアントワーヌサンと話さなくてはだ。じゃあね、カルロ。父さんはあんたが元気で安心したよ」
コツコツコツ......。カルロの働いているホテルの裏口階段を歩く。この道からアントワーヌの自室に行けるのだ。
大統領の家が雷で焼けてから二週間と少しが経った。修繕は半分ほど終わっている。
ノックをして、ドアを少し開ける。
「アントワーヌサン、俺だ」
「アレスト」
「......一人か?」
「レモーネもいる」
「レモーネサンならいい。入るぜ」
アレストが部屋の中に入る。後ろ手で鍵を閉めた。
「長旅お疲れ様なのだ」
「蒸気機関車でも五日かかる。歩いたら二週間だ。ストワード中央からシャフマ中央まではね」
アントワーヌは向かい側のソファにアレストを案内した。
「ゾナリスが先に来ていたんだねェ」
「昨日一昨日の話なのだ。君の長男の件で、な」
「すまなかった。弁償はさせるよ」
「いや......正直なところ、この家の壁や天井はなんとかなるのだ」
「......なるほど、なんとかならない部分がある、と」
アレストがソファに腰かけて足を組んだ。
「魔法のランプです」
レモーネが布に包んだランプをアレストに見せる。
「これは......たしか、ロヴェールサンに持って行った......」
「20年前、大陸統一をしたときに彼から渡されたのだ。これはオーダムの魔女が封印をしなければならないものなのだから、と」
「あぁ、前に言っていたねェ。で、それがどうしたんだ?」
アントワーヌが、ザックの指名手配書の似顔絵を突き出した。
「君の長男が鍵をかけていたレモーネの部屋を焼き、テリーナがランプに触れてしまったのだ!」
「......!?」
これにはアレストも驚いて言葉が出なくなる。
「ランプに触れたことで、封印が解かれたのです」
「テリーナに隠していた僕たちにも非はあったのだ。だが、きっかけを作ったのは」
「ザックだね。そういうことだったのか......」
アレストが長いため息をつく。
「テリーナサンがおかしくなった理由も、それによるものだったんだね」
「あぁ」
「なるほど、そりゃあ......」
「責任を取るしかないね」
〜地下牢〜
「お兄ちゃぁん、今何時?」
「分からない。もう夜じゃあないか?」
ラビーが後ろ手を縛られたまま床を転がって遊んでいる。
「もう転がってるだけなのも飽きたぁ〜。早く出ようよぉ」
「出たいのは俺も一緒だよ。しかし、俺たちだけで脱出できるか......?」
「行けるよぉ!どかーん!ぼかーん!どんがらがらがっしゃーん!で一発だもぉん!」
「どんな作戦だよ......一発じゃないし」
足音。近づいてくるそれに、肩が跳ねる。
「......あの靴は......」
暗闇の中で、見覚えのある靴が光った。
「あ!デヴォン!!ね、ね、デヴォンだよね!助けに来たんだぁ!」
ラビーがはしゃぐ。
「あぁ、あの男はデヴォンだ。おーい!こっちだ!あっ、小声じゃないといけないね。......監視に見つからなかったのか?あんたが堂々と歩いて来たなんてビックリだぜ」
デヴォンが無事で一安心。あとは鍵があれば出られる。足音がゆっくり近づいてくる。
「あんた、鍵は持っていないか?それからカッターも。あ、黒魔法でロープを焼いてくれても構わないぜ」
ザックが廊下に縛られた後ろ手を向ける。
「私がロープを焼けばいいんですね?」
「あぁ。......ん?」
声が、口調が違う。振り向こうとした瞬間、背中を炎が焼いた。
「あ゛っ!?!?ちちち!?!あっち!?!?」
「え!?失敗したのぉ!?ちょっとデヴォン!」
ラビーがデヴォンを見て固まる。たしかに、彼だ。金髪も緑の瞳も、服も。
なのに、違う。人格が違う。明らかに。知らない人だ。
「あ、あんたは誰だ......?」
なんとか体の向きを変えたザックも息を呑んだ。焼かれている背中の痛みで意識が飛びそうだ。
「それを知る必要はありませんよ、ザッカリー・エル・レアンドロ。あなたにはここでしんでもらいますからね」
魔法弾が腹に当たった。口から血を吐き出し、倒れる。
「お、お兄ちゃん!」
「ラヴィオ・エル・レアンドロ。ザッカリーをころしたら次はあなたですよ」
「お兄ちゃんも僕もお前みたいな悪いやつには負けないもぉん!」
ラビーが呪文を唱える。
「ふっ......無駄です。その縄には魔力を吸い取る特殊な素材を......」
ドッカーン!!!ラビーの檻が吹き飛んだ。
「......は?」
デヴォンが間抜けな声を上げる。
「あーあ、手の内を明かしてはいけないだろう。ラビー」
ザックも深呼吸をして呪文を唱える。
ボカーンッ!!!ザックの入っていた檻も壊れた。
「あとはドンガラガッシャーン!だよぉ!」
「うーん、あんた、ギャンブルでは絶対そんな雑なこと言わないだろう。ふふふ......」
「ま、待て!その力、まさか予知......」
「あー。バレちまったようだぜ。ラビー、もうギャンブルで百戦百勝とはいかなそうだ」
ザックが火傷をした両手を天に突き上げる。
「大丈夫だよぉ。こいつを倒すから。キャハッ」
「全く、つくづく敵にしたくない弟だぜ」
ザックがニヤリと笑い、雷魔法を発動させる。
ドンガラガッシャーン!!!
「俺とラビーを隣同士にしたらこうなるぜ」
崩れて行く地下の廊下を、黒髪の青年二人が走る。
「デヴォンは敵だったんだぁ......」
「......違う男だろう。なんだかよく分からないが、入れ替わったらしいな。それか双子の兄か」
「デヴォンに兄弟がいたのぉ?」
「本人の知らないところで生き別れていてもおかしくない出生だ」
「そっかぁ〜」
「おっ!地上だ!」
二人は手を繋いで外に出る。次の瞬間、地下への出口が瓦礫で塞がった。
「お兄ちゃんが壊したのは、僕たちが捕まっていた部屋だけだよねェ?」
「......さぁね」
「みんな、地下に居ないといいね」
「うん......」
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