第21話
ノマと別れたザックたちは、また東へと歩き始める。
「人間の魔力を増幅させ、砂の怪物を呼び寄せる......」
デヴォンはシャフマ地区の東の町の図書館でシャフマ語の本を読みながら書いた『魔法メモ』を捲る。
「あの女の言っておったことが本当ならば、他にも魔力を増幅させられた人間がいてもおかしくないのう」
「たしかにな。知らないうちに誰かに何かをされたと考えるのが自然だ」
ザックもノマのことは気になっていた。
「うーん、ザック。僕たちはまだ魔法について知らなさすぎるね」
デヴォンが視線を落とす。
「おぬしはようやったじゃろう。咄嗟に白魔法を使える男がおったからあの女は助かったんじゃ」
「デヴォンと俺たちが通らなかったらどうなっていたんだ?」
「砂の怪物か魔族に食われておったじゃろうな。あんな魔力の塊、魔族にとっては格好の餌じゃ」
餌。その言葉に男二人がギョッと顔を顰める。
「じゃ、じゃあ......あんたも」
「人間を、食べるの......?」
「......まぁ。食うこともあるじゃろう」
「「ひぃ〜っ!!!」」
「俺は美味くないぜ!」「僕も!肉なんて全然ないし!」とギャアギャア騒ぎ出す。
(しかし、ストワードか......。バレリアが気がかりじゃな。追われる女、じゃからのう)
本人は気にしていない、と言っていたが。関係なく向こうはやってくるのだ。
「ぼっちゃ〜ん!!!」
ザックとラビーが同時に「「おお!」」と声を上げて走り出す。
「リスおじだぁ〜!会いたかったぁ!」
「ゾナリス!ストワードに来ていたんだな」
「えへへ、やっと会えたよ......オジサンもう足が上がらない......」
茶髪の妙齢男性、ゾナリスだ。
「ラビーぼっちゃんには少し前に会えたんだけどね、ザックぼっちゃんにはなかなか会えなかったからさ。行ったり来たりしちゃったよ」
「すまない。こっちもいろいろとあって。今はストワード中央に向かっているんだ。父さんに会いたい」
「うんうん、その件だけどねぇ。なんとかなりそうだよ。実はアントワーヌさんに話をしてある。俺からね」
「......え?」
「君がストワード中央で指名手配されているのはシャフマを出てすぐに分かったからね。アレスさんはまだ知らないかもしれないけど」
「えっと」
「アントワーヌさんは君と話をしたいそうだ。一旦死刑の話は降ろしたから、君が下手なことを言わなければ多分大丈夫......あとはアレスさんが上手くやってくれるよ」
「ちょっと待ってくれ!」
ザックの声は震えていた。
「あ、アントワーヌ大統領と話を......?あんたが、いや、父上の名前でそんなことができるのか?」
「......できるよ。心配しないで。大丈夫、オジサンとアレスさんに任せてよ」
ゾナリスが眉を下げて笑う。
「このままストワード中央へ向かおう。ザックぼっちゃん」
「お兄ちゃん、指名手配されてたのぉ?」
ラビーがザックに飛びつく。
「げっ......」
「キャハハッ!おもしろぉい!刑務所?刑務所のご飯って美味しいのかなぁ?」
ザックの背中に頭突きをする。
「ふん、おぬしは犯罪をしておったのか」
「リュウガサン......」
ザックは目を泳がせる。
「ザック、本当に......?僕にはそんなこと一言も言わなかったよね?」
デヴォンも戸惑っている。
「......すまない。何も言わなくて......」
ザックが頭を下げる。
それを見て一番に口を開いたのは、意外にもヴァレリアだった。
「......まーーー、いーんじゃない?」
たった一言。
それを聞いたリュウガの頬が緩む。
「そうじゃのう。我らは遊んでおるだけじゃ。おぬしが犯罪をしておったからといって説教する気はないわい」
「ぼ、僕だって勉強のために旅をしているだけだから......。でも、相談くらいはしてくれても良かったんじゃない?」
「あんたたち......」
「ありがとうな」
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