第20話

〜ストワード東の街〜


「おっかしいね……」

こちらでも男が一人。路地裏で立ち止まって一枚の紙をじっと見ている。

紙には『指名手配』の文字。ザックの似顔絵が描いてある。

「まさか『ぼっちゃん』が犯罪者になっちゃったなんて……。街の人に話を聞こうにも、これじゃあ俺が怪しまれるよなぁ」

どうしたもんかね……と、ため息。

「『旦那さん』の依頼はぼっちゃんに会って旦那さんがストワード中央へ行くってことを伝える、だけど。……それどころじゃあなさそうだ」

足音。数人が夜の路地裏に向かってくる。

「……」

男が5人、ニヤつきながら自分を見ている。右手には銃。

「へへへ、ここらは俺らのナワバリだぜ」

「生きて帰りたきゃあ、金を出しな」

銃口を向けられる。

「それが『銃』?オジサン初めて見たよ」

「はははっ!田舎者か!シャフマ人か?フートテチ人か?」

「俺はシャフマ地区に住んでるよ」

世間話の態度だ。ヘラヘラと笑う。

「呆れたぜ!遅れたシャフマ人は銃の怖さを知らねぇのか!」

笑い声。

「威力を見せてやろうか?くたびれたオッサンなんて即死だぜ?」

リーダーらしき男が近づいて来る。茶髪の男はヘラヘラと笑ったままだ。

「ころして金を奪ってやるか」

「へへへっ、弱そうなシャフマ人だぜ」

向かってくる男の後ろでコソコソと声がする。

銃口を突きつけ、引き金に手をかけ、

「こう使うんだよ!そぉら、バ…」

―グサッ……

「ン……?」

リーダーが倒れた。暗器で腹を刺されたのだ。

「ありゃっ。倒れちゃった。急所じゃないからしんでないとは思うけど」

茶髪の男が後ずさる。4人の盗賊はギョッと顔を見合わせた。

「な、なんだアイツ!」

「リーダーの腹を刺したのか!?」

「武器が見えなかったぞ?」


「なに?見えやすい武器の方が良かった?」


暗器。茶髪の男の右手には、暗器があった。


「ごめんね、オジサンほんとは槍が一番得意なんだけどさ」


「今持ってなくてね……」


ヘラッ……。下がり眉の笑顔が、月の逆光に。

4人の盗賊は腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。

「そうだ、君たちに聞きたいことがあるんだよね。オジサン、今人を探していてさ……」



「ありがとう。ほんと助かったよ〜。盗賊は指名手配犯の賞金目当てに動くことがあるもんね。君たちに聞いて正解だった」

「い、いえ……。お役に立てたなら何よりで……」

茶髪の男が頭を下げる。盗賊も頭を下げる。

(ぼっちゃんはシャフマに向かっていた。ってことはラビー君には会っているはずだ。と、なると……よし)

向かうべきは、西。すぐに依頼を果たせるはずだ。




〜シャフマ地区 東の砂漠〜


ノマの歌声は綺麗だった。

透き通るような声に、皆の心が洗われる。

「なんだか力がみなぎってくるねェ」

「気のせいではないぞ。歌声に魔力が含まれておる。すごい魔術じゃ。白魔法の回復に近い」

「え!?どういう仕組みですか、リュウガさん!」

「我も知らんわい。初めて見た」

「なんかすごー……」

ヴァレリアも聞き惚れている。ラビーは癒されて眠っている。

「……聞いてくれてありがとな!」

歌い終えたノマが呼吸を整える。

「良い歌だったぜ、ノマサン」

「嬉しいぜ!ええと……」

「おっと、自己紹介がまだだったね。俺はザック。金髪の細い男がデヴォン、オレンジ髪の小柄な女がヴァレリア、赤髪のでかい男がリュウガ、」

「ボクはラビーだよぉ!」

ラビーがはしゃいでノマの周りを走る。

「お前らは旅をしているのか?」

ザックが「まぁそんなところだ」と頷く。

「ストワード中央へ行くんだよぉ!」

ラビーがドヤ顔で言う。

「そうなのか!俺はこれからシャフマでツアーだぜ。プロデューサーとはぐれちまったが、次のライブ会場はシャフマのあの街だから行けば会えるはずなんだぜ」

「シャフマで歌うのぉ?皆の前で?」

ノマがコクリと頷く。

「おう!皆に元気を届けるんだぜ!」


「シャフマに行くのならばここで別れることになるが、その前におぬしに聞きたいことがある」

リュウガの真剣な声に、一同の間に緊張が走る。

「おぬし、魔力を弄ったのじゃろう。どうやったか説明せい」

「魔力……?」

「そうじゃ。魔力を一気に増幅させ、砂漠の真ん中で怪物の餌にされるのを待っていたのじゃろう。何故そんなことをした?」

「な、なんのことだよ?」

「しらばっくれても無駄じゃ!!!人間が魔力をいたずらに増幅させて良いはずがないわい!おぬしは何を企んでおる!」

「待ってくれよ!俺は魔力なんて知らねぇよ!突然息ができなくなって、砂漠の真ん中で倒れたんだ!」

ノマが大声で言う。

「おぬし、魔法使いではないのか……?」

リュウガが目を見開く。

「俺はストワード地区で生まれてる!この地域では魔法は全面禁止だ!だから魔法の使い方なんて知らねぇ!」

「……なら、何故……。何故、おぬしの魔力は……」

原因が分からない。

250年前、オヒナが倒れたときと同じなのだろうか。ノマの体質なのだろうか。

(何か引っかかる……)

誰かが、ノマの魔力の操作をした?

(だとしたら、何が目的で……)

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