79日目 反抗

 祖父はいわゆるワンマン経営者という奴だった。幼い頃は豪快なところが好きだったのだが、成長するにつれて私に何かを強制してくる事が増えて、だんだんと嫌いになっていった。

 そんな祖父に対して父は言いなりだった。指示されたとおりに学校に入り、父の会社に入社して仕事をし、母と結婚したのも祖父が言ったからだったらしい。

 私はもともとお父さんっ子だった。父はよく私と遊んでくれたし、優しかった。しかし、それも母が父に要求したからであったらしい。私はだんだんと父の事が嫌いになっていった。


 私が高校生にもなると、祖父は私を地元の名家に嫁がせると公言し始めた。それは知り合いの中では半ば既成事実のようになり始め、私の祖父嫌いは加速した。

 反抗の気持ちもあって、学校の不良とつるみ始めたのはその頃である。

 夜にバイクに乗って遠出したり、タバコを吸ったりするのは、わかりやすい反抗だったが、それでも意に沿わないことをしているという実感があった。彼氏となった男は、祖父のことなど知らないと言い、簡単に永遠の愛を囁くような奴で、それはそれで私は気楽だった。

 しかし、そんな形の私の反抗は何ヶ月か経ったところで徹底的に潰された。

 彼氏がまとめていたチームは、半グレの集団の攻撃に遭った。私の彼氏は顔が倍に膨れさせるほど殴られ入院し、退院した後も私に連絡をよこすことはなかった。

 私はそれで心を折られ、金髪に染めていた髪も黒く染め直したし、お見合いだろうとなんだろうと受け入れる様な心持ちにさせられてしまった。


 父が祖父に反旗を翻したのは、そんな折のことだった。突然、祖父の退任を迫ったのだという。

 私にとっては突然だったが、実際には計画的なものであったらしい。最初に話が出たときには、祖父に握りつぶされるだろうと大半の人からは目されていたが、状況はどちらに転ぶか半々という状況であったらしい。

 もちろん祖父は多くの実績を持っており、会社を引っぱっていく力も間違いのないものだ。しかし、父もそれまでの経験の中で実力を培ってきたし、なにより未来を感じさせた。

 私は父が何をしようと構わないと思っていたが、なぜ今まで言いなりだった父の突然の反抗が謎だった。今更反抗するくらいならもっと早く反抗すれば良いだろう、と思ったし、どうせ祖父に潰されるだろうと冷笑的だった。

「なんで今なんだろうね。遅い反抗期?」

 私は笑いながら、母に向かってそんな風に言ったが、母は真面目な顔だった。

「なんでって。あんたが結婚させられそうだからでしょ」

「は?」

 母は、私に呆れ気味だった。

「あんた、あれだけ溺愛されているのに、そんなこともわからないの?」

 私はその言葉をしばらくの間呑みこむことが出来ず、その後理解した後は猛烈に恥ずかしくなった。


 父は祖父を退任させた後、家に帰ってきて私に言った。

「好きに生きなさい」

 私は「ありがとう」と小声で答えた後、自分の部屋に戻って、ベッドの上で倒れ込むと、感情が溢れるまま転げ回った。

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