バウンダリ編 第2章 第25話 孤高

 山本大佐は、研究所の執務室でゲンドウポーズのまま一人ほくそ笑んでいた・・・意図しなかったとはいえ、若い被験者が一気に6人、それも導人が自ら魔法の指導をしてくれる。

 懸案だった能力獲得年齢と魔素による細胞変異時の能力差について結果を見ることができる、さすがに未成年による魔法使い化は山本も憂慮し禁忌していたが、勝手に転がり込んできた。


 これで、結果が良ければ軍学校高等部に魔法学科を作り魔法使いを作ってもいい、そうなれば一気に国力は増す・・・まあそこまで公けになれば旧人類となる老害からの横槍は増えるだろうが、本人が望むなら魔法使いにしてやればいい・・・変化に耐えれるかどうかは知らんが・・・



 魔法使いになってしまったクラスメイトの達の訓練場所として軍が学校近くの防音完備、トレーニングルーム付きのマンションの一室を借り上げてくれた。

 メンバーは、ルームキーと軍の身分証明のカードが必要な2重セキュリティ錠を解除して利用できることになっている。


 当然煩悩全開の中学生・・・それも、受験勉強が必要なくなってはっちゃけたメンバーはすぐにゲーム機やモニターを持ち込み遊び場となった、これで成績が落ちれば親からの苦情が来そうだが、導人が実証した通り、魔素による身体強化勉強法で夏休みの宿題と共に、やるなら今だ! との勢いですぐに中学3年分の勉強を終わらせてしまった。


 それでも、一応はみんな魔法使いに憧れがあったため、トレーニングはまじめに行いどんどんと実力が上がっていった。

 後にはっきりするが山本が考えていた通り魔素と細胞の親和性は、若いほうが良いと言えるだけの有意差が実験結果に出た。



 高津あきさんは、魔法使いになってすぐテニススクールを退会したが、夏休みも中盤になってふらっとスクールを覗きに行ったらしい、ちょうどライバルと思っていた先輩が練習に来ていて、コーチに聞くとちょっとなら打ってもいいということで、シューズとラケットを適当にレンタルし1セットだけ試合をしたようだ。


 身体強化をしなくても魔素による身体の最適化の影響か、前に目の前で導人と凜の試合を見たせいか、ライバルと思っていた先輩は思ったよりも遅く動きも悪かった・・・少し疑問に思いつつもどんどん点差を広げあっという間に勝ってしまった。

 試合が終わると、

「すごいじゃない、どうしたの一体?」

 と問われたが、ここ最近は特に何もしていない達男とゲームをしていたぐらいだ。

「何もしていない・・・ただ体は以前に比べて思い通りに動いていた気がする」


 と言うと、

「ああ、高津さん前は体を壊しそうな勢いで追い込んでいたから、疲労とかもあったのかもね」

 あきはそこで初めて、少し前のすべてに焦っていた自分の状態を思い出した、何もかもうまくいかず一人で苦しみ、どんどん自分を自分自身で追い込んでいた、今なら理解できる、でもその時は周りが何を言っても理解できなかったし理解したくもなかった。


 それに比べ、今の自分は夏休みだとはいえ、秘密基地に集まって好きなことをしている、親の目もない自由を楽しんでいる、頼りないけど彼もいる・・・思わず焦っていた時の自分を思い出し、笑みがこぼれた。


 ちょっといたずらをしようと思いつき、誰もいないコートに向かい身体強化を使ってサーブをしてみた。

 パンと乾いた音がした時には相手コートの背後にある網をボールが昇って行っていた、フラットに打ち込んだが相手コートに着地した瞬間、強烈なトップスピンがかかったようだ。

 あきは、コートに向かい静かに一礼をすると踵を返し、借りた道具を返すためコートから出ていく・・・


 このコートは、プロを目指す選手用でスピードガンが付いていたが、その時の数字は300kmを超えていた。


 あきは秘密基地への帰り道、納得はしたものの少し気になっていたテニスに、心理的決着が着いた様で、頭の中では今日するゲームの事を考えていたが、足元は軽くスキップしていた。




 少しさかのぼった8月のはじめ導人たちの学校には登校日があり、久しぶりに学校に行った。

 荷物や宿題を置いていたため秘密基地に行くと達男もいて一緒に登校し、教室に入るとすっかり存在を忘れていたA君が泣きそうな顔をしてこっちを見ていた・・・おもわずドアを閉めてしまった・・・達男と顔を見合わせながら

「すっかり、存在を忘れていた・・・」

 と意思を確認しそっとドアを開けると今度はドアの前で泣いていた・・・

「「こわい・・・」」


 どうしようか悩んでいると、後ろから

「「おはよう」」

 とそろった声が聞こえた、振り返ると高津さんと美馬さんが立っていた。

 達男が

「ああ、あきおはよう、美馬さんもおはよう」

 と言った瞬間、友也が崩れ落ちた・・・


「夏休みに入っても連絡がないと思ったら・・・そういうことかよ」

 とまた泣き出した・・・


 また、達男が追い込みをかける、

「ああすまん、忘れてた、つい楽しくてな、はっはっは」

「くっ、ぐれてやる」

 と友也がどこかに走っていった・・・


「追いかけなくていいの?」

 と高津さんが達男に言ったが、

「大丈夫、根性なしだからホームルームまでには帰ってくる」

 と言って、さっさと教室に入っていった。


 まあ、達男の言った通りすぐに友也は帰って来た、ただ拗ねたふりは続けるようだ。


 結局宿題の提出と、学校推奨の映画か本を見て感想文を書いてこいと言うことと、推薦の受付するから志望校がある人間は親と相談してこいとの事だった。

 あっやばい

「先生」

「どうした深見」

「軍学校の高等科を受験するので9月の中旬に健康診断と体力テストを受けに行かないといけないんですが」

「あっやべ、あそこって願書も早いんだよ、今まで受けた生徒がいないんで忘れていた、あとで職員室に来てくれ」

「先生、私たちも同じです」

「おれもです」


「いきなり、4人もか?」

 達男が情報を垂れ流す

「軍とは話が付いているので、受ければ大丈夫です」

「ばっ・・・(ここから小声で)守秘義務の意味覚えてるか?」

「あっ、やばいかな?」

 (ここから普通に)

「と言うことで、詳細は言えませんが、先生よろしくお願いします」


「おっおう、わかった・・・んっ佐藤はメンツに入ってないのか珍しいな?」

 と先生が言った瞬間、友也は泣きまねを始めた

「先生・・・僕仲間外れにされて・・・とっても悲しいです。キリッ」

「ああその様子なら大丈夫そうだな、必要なら願書やるから来いよ、それじゃあこれで終わる」


 先生が、教室から出て言ったとたん友也がやって来た

「いつの間にそんなことになったんだ、それに高津ちゃんと美馬ちゃんまで・・・」

 達男が

「話すと長いことになるし、守秘義務も絡んでくるから詳しくは言えんが・・・あきと付き合っている、うふ」

「ちがう、それも気になるけど軍の高等部の話だよ」

「そっちか、それならそうと言えよ」

「どうしてさっきまでの話で、付き合ってるという話を聞いていると思ったんだ?」


「しぃよぅがねぇ、そこまで言うなら語ってやろうじゃねぇかぁ」

「毎日とってもしあわせ、うんうん」


「・・・導人頼む、達男は壊れている」

「あ~まあ、ここじゃあ話がしにくいけど、簡単に言うと夏休みに入ってすぐにフジの方にテニス合宿に行って、いろいろあって俺がキス・・・じゃないミスしてこうなった」


「・・・導人ハナシワカンナイ・・・キスって何?」

「キスじゃない、ミス」

「導人・・・お前の後ろで美馬ちゃんが赤くなっているけど・・・」

 言われて振り返ると、うん真っ赤になってうつむいてる・・・


「あー、それはそれで原因と言えばそうかなうん・・・」

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