バウンダリ編 第2章 第10話 予兆

 会議からの帰り導人はいつものように、送ってくれる車を研究所の前で待っていた。

 そこに見慣れない車が現れ、飛田3尉が運転席から助手席越しに

「導人くん、早く乗って」

 とせかすように言った。


 導人は、クエスチョンマークが頭に浮かんだが、

「早くしないと大変なことになるの」

 とせかされるため、助手席に乗り込んだ。

 すると間髪を入れず発進する、白に赤いアクセントの入った軽自動車。


「いったい何があったのですか?」

「もう少し離れるまでは危険よ、ちょっと揺れるけど我慢して」

「はい」

 と返事をしたが、ここはまだ基地の施設内路面には20km以下という標識とペイントがしてある、こんなにスピードを出して大丈夫なのかな? と心配するが、ガンガン走っていく飛田3尉・・・



 その少し前、研究所の玄関前に白に赤いアクセントの入った軽自動車が止まった・・・んんっ、あれは確か飛田3尉の車・・・深見くんと何を? あっ乗せたということは、速やかに近くの電話を取り交換にゲートの守衛につないでもらう。

「こちらゲートです」

「特殊攻撃M師団小田3尉だけど、そっちに向かっている白い軽自動車、赤いアクセントが入ったタイプに飛田3尉が乗っているから、速やかに捕縛して、私もそちらに向かうわ」

「はい」


 飛田3尉は急いだ、場内のスピード違反は見つかれば訓告間違いなしだが・・・えっゲートが締まっている・・・なぜ? 一般用と違いこちらは専用通用門どうしてしまっているの・・・仕方がない一般用に回らなければ・・・急いで道を変更し一般通用門につながる通路に入っていく、ふと目の端に護衛用特別車が目に入った、あれは本来の導人くん送迎車・・・やばいわ、目の前の路面をにらみながらさらにスピードが上がっていく。


 やっと、正面ゲートにたどり着くがこちらも門が閉ざされている、守衛の兵士が近づいてきた。

「止まってください、身分証明書の提示をお願いします」

「特殊攻撃M師団飛田3尉よ、急いでいるから早く通してくれない」

「身分証明書の提示を」

「仕方がないわね」


 ごそごそとカードを取り出し守衛に渡す

「はい、飛田ほむら3尉・・・ですね」

「そうよ、もういいでしょう?」

「残念ですが、捕縛命令が出ています、おとなしくしてください」

「やられた、しかし・・・やらせはせんぞ、捕まらなければどうということは無い」

 とバックしようと、セレクターを切り替える・・・が後ろには立派な黒い車がびた付けしていた。


 助手席のドアが開かれ

「深見くん、無事だった?」

 と、小田3尉が顔をのぞかせた。

「ああ、はい、別に何もありません、逆に何があったんですか? 突然大変なことになるから乗れって飛田3尉に言われて車に乗ったんですが・・・」

「ああ、この馬鹿が大変な事をしようとした主犯よ、ここで捕まえたからいいものの、特別警護の対象をさらうなんて懲戒だけじゃすまないわよ、さらに未成年だし罪状が増えるわ」

 車から降りて車の運転席側を見ると、飛田3尉は手錠を掛けられしくしくと泣いていた・・・

「深見くん、お手数をかけて申し訳ないけどちょっと事情聴取が必要なの、一緒に来てくれる?」

「ああ、はい、飛田3尉どうなるんですか?」

「まあ、施設からは出ていないけど、それは止めた結果だからどうなるかしらね、私には分からないわ」


 無言で、研究所まで歩いて行く・・・ここの施設ってこんな感じだったんだ植木の陰にいたるところにコンクリートの壁と鉄でできた門が隠されている、見た目は開けて緑も多くていい感じなのに有事にはすべてが順に閉じていけるようになっているようだ。

 感心してみていると、小田3尉がすごいでしょこの壁って下からせりあがって3mくらいまで高くなるのよ・・・と教えてくれた。


 研究所に戻り所長室に行くのかと漠然と考えていたが、エレベーターのわきを抜ける通路を通り回り込んだ所に、いくつかの扉が並んでいる中の一室に入っていった、一緒について入る。


「あっ、深見3尉はこちらです」

 と守衛さん?に呼ばれて隣の部屋に入った、さっきの部屋はスチールの机と椅子しかなかったが、こちらは普通の応接セットになっていた。

「お飲み物でも用意いたします、何か希望はありますでしょうか?」

 と案内してくれた、どとーる・・・いや違う、つち・・・そうだ土堂瑠璃(つちどうるり)さんだった

「甘めのコーヒーをお願いします」

「それでしたら、カフェモカをお持ちしましょう、少しお待ちください、もう少しで所長もお出でになりますので」

「はい、お願いします」


 あれ、さっき3尉って呼ばれた気がする、でも身分証明書は変更されていないし・・・ああ服か・・・襟章が3尉にままだ、返すのを忘れた。


 などと考えていると、山本大佐が入ってくるなり部下が申し訳ないことをした、と謝って来た

「いやこちらも軽々に別の車に乗ってしまったし、相手が飛田3尉だったし・・・」

「そうだな、君は自分の立場というものを考えてもらわないといけない、諸外国からすれば手に入れるか、手に入らなければ殺してしまおうと思える対象となっている、先ほど飛田3尉だったしと言ったが、今回の作戦で少し見知っただけだろう、もし飛田3尉がどこかのスパイで、さっき君を車に乗せたまま拉致しようとした可能性だってあり得るんだ、その辺りを理解してほしい」

「ああ、そう言うこともあるんですね」


「スパイには、親の代やもっと前から潜伏している者もいるから、こちらの調査もなかなか届かなくってね」

「まあそれじゃあ、少し状況を教えてくれるかね」


 持ってきてくれた、すっきりとした味わいのカフェモカを飲みながら、先ほど起こった事の顛末を説明する

「なんとまあ」

 と山本大佐は一言つぶやくと

「少し待っていてくれ」

 と席を外し、出て行った


 どうなるんだろう・・・



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