第14話 差し替えられた台本

 翌朝、5人は再びギルドへと向かっていた。パーティーとして申請し、依頼を受けれる様にする為だ。


「ミレイ、そういや流れでソル達と一緒にいるけど、いいのかな?」

「いいんじゃないか? 彼らも友好的だしそれに言ったろう? 私達は正規ルートでバーレル鉱山まで行く必要がある。その為にはギルドでの許可がいる」

「つまり、何かしらパーティーでいた方が都合が良いと?」

「そういうことだ、それにバグは私達がどうにかするとしても、ゲームの進行上、NPCに頼らなければ行けない部分は必ず出てくる。それならば同行していた方が得策さ」


 バグこそ発生しているが、本来のルートでもアトランダムのNPCが仲間になり、ゲームを進めていく流れになるものだった。それはプラットフォームが変わる前のウィスタリアも一緒であった。


「そ、そうか……」


 ミレイの目は時折り遠い目をしており、たまに欠伸をしている。


(ミレイ、何か元気ないな。寝不足なのか? そもそもウィスタリア内で寝不足の概念があるのかよく分からんが……)


※ ※ ※


 ――ギルド内。パーティーの申請を行う為に一行は受付に来た。


「本日のご用件は依頼クエストの受注ですか、パーティーや公認賞金稼ぎハンターの申請ですか?」


 受付にいるギルド側の女性が粛々と手続きを進めている。


「パーティーの登録で頼む!」

「畏まりました。メンバーはここにいる5名で宜しいですか?」

「おう、それでいいか?」

「ここまで来て今更躊躇ためらいはしないわよ」

「畏まりました。では、ライセンスの登録とステータスログの更新を行います」

(ここまでは、ある程度俺が知ってるウィスタリアの内容に沿ってはいる。ここで正式にパーティーが結成されれば、パーティーメンバーの能力やランクが確認出来るようになる。後はバーレル鉱山に行けるランクになるまでひたすら通常のプレイリングとデバッグを一度も死なずにノーミスでするしかない)


「それでは、パーティーの希望名とリーダーを決めて下さい」

「パーティー名とリーダーを決めろって? うーむ……リーダーはやりたいヤツはいるか? 俺ァ、ミィナが適任だと思うが。まぁ強制はせんよ」

「俺は、リーダーはソルが良いと思う」

「私も賛成」


 レンとミィナはほぼ即決でソルに一票を投じた。


「えっ? 俺でいいのかよ? 細けえ事は出来ねぇぞ?」

「別に、気にすることはないだろう。私もソルがリーダーなのに異論はない」

「そうですね、その辺は僕たちで何とかしますよ」


 2人に続き、ミレイとカイルもソルがリーダーとしてパーティーの指揮を執ることに賛同する。


「それにむしろリーダーはソルが適任だよ」

「なんだ? 年功序列ってやつか……? リーダーはじゃあ俺として、パーティー名は?」

「パーティー名は、考えてなかったな……」


 ソルもレンも頭を捻らせるがこれといったものが思いつかない。


「パーティー名は、後日決まってからでも構いませんよ」

「よし、じゃあそれまではソルファミリーだな!」

「イマイチしっくりこねぇけど、決まるまではとりあえずそれでいいか!」


「では、こちら依頼クエストの一覧になります」


(どれも見た事ある地名や街の名前だ、でも肝心のがねぇ!)


「あの……バーレル鉱山へ行く依頼ってありますか?」


 既にレンは嫌な予感がしていた。この時点でランクが足りず受注は出来なくとも、バーレル鉱山が関与する依頼は一覧に載っていたはずだったのだ。


「申し訳御座いませんが、そちらは国家指定以上のランクが必要になる為、ご用意出来ません」

「えっ、見ることも出来ないのか?」

「そうですね、最低でもランク"5"は必要になりますので」

「えっ? "5"ですか? "3"じゃなくて?」

「はい、ギルド運営管理トップからの勅命でございますので」


 レンとミレイに違和感が走る。従来の設定されていたはずのランクと違っていたからだ。


(そんなバカな!? 本来なら"3"のはずなのに)

「やはり……ある程度人為的に関与されている可能性があるな」

「人為的に関与って、もしかしてこの前話してた『ナーシャ』って人だっけ……?」

「断定は出来んが、な。しかしこの様な芸当が出来るのはプログラムやハッキングの知識のある『ナーシャ』くらいのものだろう。現に、今の会話にはバグが発生していない、むしろバグであった方が好ましかった。この場でレンがあの剣を振り回せば済んだ話しだろうから」

「多分、それはそれで別の意味でややこしくなる。でも確かに、バグ特有のノイズらしきものもねえしな」

「つまり、もう既に台本ストーリーが差し替えられていると見てもおかしくない」

「じゃあ、正規ルートでもダメかもしれないことになっちまうじゃねえか!」

「だが、バーレル鉱山の管理室まで行ければまだ何とかなる。あそこはナーシャには入れない。私の部屋みたいなものだから。取り返しがつかなくなる前にそこへ行くしかない」


 あの時、ミレイが予想した最悪の筋書きが、ゆっくりと少しずつ牙を剥こうとしていた。

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