第15話 不穏の兆し
結局、ランクが全く足りないレン達はバーレル鉱山へ行く依頼を受けるどころか見ることすら叶わなかった為、地道にランクを上げることとなった。
「そういや何でバーレル鉱山に行きたいの? あの辺の魔物ってめちゃくちゃ強いって聞いたことあるけど」
ミィナな不思議そうにレンに尋ねる。考えてみれば初期装備全開の人間が高難度のエリアに行こうとすることがまずおかしな話しだった。
「あ、えーと、そこの魔物が落とすアイテムが欲しくてさ、ちょっと先走っちゃって」
レンの言い訳は少々苦し紛れだ。
「でも私達はパーティーになったばかりよ? 有名な戦士や国家任命賞金稼ぎがパーティーを組んだならまだしも……」
「僕らは当然ですけど無名だから……コツコツ上げていかないといけませんね」
「まあランクを上げるってのには大賛成だ。コツコツ上げるのは性に合わないがな」
「そうはいってもそんなにすぐランク上げるとなると、よっぽどヤバい依頼受けないとね」
「そういや、結局ソルはなんの依頼を受けたんだ?」
「これだ! "薬草採取"」
ソルはギルドで貰った受注表を全員に見せた。
「採取だけなら簡単そうですね」
「だろ? その割には成功評価が高めになっててな、こりゃ儲けものだと思って」
ミィナは何かに気付きソルから受注表を奪い取る。
「……ねぇ、ソル。アンタこの薬草採取の場所、何処だかちゃんと見たの?」
ミィナの依頼の受注表を持つ手がプルプル震えていた。そして、ソルを睨みつけている。
「いんや、見てない。薬草だからこの近くで取れるんじゃないのか?」
「距離の問題じゃないわよ! 問題は場所よ! 見てみなさいこれ!」
「えっ……ここ"
「ゲッ! マジかよ! 迷ったら森の肥やしになるまで出れないって言われてるあそこか!? うーむ……一旦、依頼キャンセルするか?」
「受注した依頼を早々にキャンセルしたらギルドがいい顔しないでしょうね……」
「しゃあねえ、やるしかねえか」
「行くの!? 迷ったら終わりよ!?」
「大丈夫だ。道なら多分、俺がわかる」
消沈する3人に対し、案内役を名乗り出るレン。
「うそ!? 行ったことあるの!? そもそもあの森に道なんて概念あるの?」
「うっし! これなら何とかなりそうだな!」
(でも、懸念は残るな……そもそも蜃気楼の森の依頼は現行ランクで受注出来るとはいえ、もう3つか4つ先に受注してた依頼だ。今の俺達で踏破出来るのか?)
「伊達に数年ウィスタリアをやり込んだだけの事はあるな、でも不安か?」
ミレイが内心パッとしないレンの表情を見て声を掛けた。
「よく見てやがんな。そりゃやっぱりノーミスって事を考えたらちょっとな……俺も周回プレイで難しい依頼から進めてみた事はあるが、ゲームオーバーになった回数はそれなりにあったしな。しかも蜃気楼の森って……」
「小学生の時だったか? レンがかつてボス戦でなかなか勝てなかった場所だろう?」
「よく覚えてるな、あの時はミレイに言われた通りレベルを上げて何とかしたけど……ちなみに俺達のレベルってどのくらいなんだ?」
「そうだな、さっきチラッとみたがパーティーのアベレージは7とかだったな」
「なかなかキツそうだな……」
「レンがやった時は3人パーティーだったはずだ。でも今は私達を入れて5人いる。それで何とかするしかない。最悪、いざとなったらスクリプトコードの変更を行うさ」
歩き続ける事1時間ちょっと、開けた道は徐々に木々が生い茂り始め、辺りに霧が立ち込める。足場も悪くなり、あまり人が立ち入らない様子が伺えた。
「いつの間にか随分獣道になってきたわね」
「いよいよ、蜃気楼の森ですね……」
「おう、いよいよそれっぽくなってきたじゃねぇか!!」
「ソル、アンタの元気はどこから生まれてくるのよ?」
「あん? レンが案内してくれるなら後は寄ってくる魔物を何とかするだけだろ?」
「僕もソルみたいに細かい事気にしないで生きてみようかな」
「カイルやめて、これ以上マトモな人間が減るのは勘弁だわ……ミレイも、何か言ってやんなさいよ?」
「ソル、君の名前には"太陽"という意味があるんだ。いつだってマイペースに耀くからこそ皆に元気を与える事が出来る。君にピッタリの名前じゃないか」
「ん? なんか俺褒められた? とりあえずそういうことにしとくか! ダッハッハ! 行くぞお前ら!」
「調子に乗せてどうする!!」
「ははは……」
和やかに会話をするのも束の間、突如レンに悪寒が走る。まるで
(はっ……!? どうなってんだこれ!? エルムダールの時の様な部分的なノイズじゃない! これじゃまるで蜃気楼の森全体がバグで侵されてるみたいだ……!)
「なんだ? どうかしたのか?」
「あ、いや……」
(待てよ、みんな気づいてないのか?)
エルムダールのバグとは比にならないほどのノイズが辺り全体から醸し出されている。レンは冷や汗を流した。この森の先にはかつてない恐怖が待ち受けているであろう予感に。
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