第13話 仲間を求めて

 夕暮れ、レンとミレイの2人はエルムダールの無限回廊バグを乗り越えてようやくギルドへ到着したのだった。


「おーい! こっちだこっち! 遅いぞ!」


 ソルの張りのある声が響く。テーブルには既に大量の酒と思わしき飲み物と、多数の料理が並べられていた。


「もう、待ってたのよ? 仲がよろしいのは良い事だけど」

「まぁミィナ、お互い探し人同士でようやく会えたんだから茶化さなくても」

「すまないね、レンがなかなか離してくれなくて」


 ミィナとカイルが微笑ましく2人を見つめる。そしてミレイの一言でさらに拍車をかけた。


「ちょ!? おい!」

「さぁ、続きは呑みながらだ! ガキンチョはジュースにしとけよ!」


 何か言いたげだったレンに対し、食い気味にソルが被せたせいで、うやむやになってしまった。


(まあ、いいか)


 ソルがグラスをかち上げて、乾杯の音頭をとると、それに合わせて他の4人もグラスを上げる。"乾杯!"の声と共に飲み会が始まった。


「それにしてもミレイさんも、レンさんも珍しい特技を持ってますね。バリアーみたいなの出したり、相手を小さくしたり、見えない敵を見つけたりとか」

「言われてみりゃ一番最初に見せたバリアーってどうやったんだ?」

「バリアーとはちょっと違うが、一定の条件に掛かる接触を否定する壁みたいなものだよ」

「何かバリアーって聞くよりすごい気がするが……」

(なぁに、簡単に言えば簡易的なファイアーウォールみたいなものさ。この世界はあらゆる物がプログラムで構成されているんだから)


 ミレイはレンにだけ分かるよう、能力の詳細を耳打ちする。


(なるほど、そう言われると分かる気がする)


「ガッハッハ! 何であろうが有力なヤツと組めるのは良い事じゃねえか! 賞金稼ぎハンターとしてもパーティーとしても一目置かれやすくなるぜ!」

「いや、そもそもまだギルドにパーティーとして申請してないでしょ?」

「あ、そうか。明日申請するって話だったな! ダッハッハ!」

「あーあ、ソルったら完全に出来上がってるね」

「……もう、だから言ったのに」


 ミィナとカイルは既に出来上がっているソルを見て呆れ顔をしていた。


「中々個性があって面白い連中だろう?」


 ミレイはNPCの3人を見てクスクス笑っていた。


「確かに、色んな意味でバランスは良さそうだな」

「何よ、私からしてみたらミレイが一番個性あるように見えるけど」

「それは俺も納得」

「なんだ2人して、私は至って普通だぞ?」

「バランス、そうだなぁ……あと1人足りないんだよなぁ……」


 さっきまで会話の半分は笑っていたソルが真剣そうに悩んでいた。


「そういえば、1人は絶対必要って言ってたよね」

「絶対必要?」

「あぁ、今俺達はレンとミレイを含めても、剣が3人、弓が1人、何か珍しいのが1人だろ?」

「ん? ……あぁ、なるほど。魔法をメインに使うヤツがいないのか!」

「そうだ、『魔術士』が欲しい! 魔法生物の相手や俺達がダメージ負った時のヒーラーは必須だろう!」

「でも、僕たちみたいに異変に気付けて、攻撃も補助も出来る魔術士なんて都合良くいるかな?」

「まぁそう簡単には見つからないわね」

「だから俺達が有名になりゃ、スカウトもし易くなるだろ?」

「スカウトし易いのと見つかるかはまた別な気がするが……」


※ ※ ※


 大体1時間ほどが経過くらいだろうか、テーブルには空いた皿やグラスが大量に置かれていた。


(どうしてこうなった……?)


 レンが見ている光景に違和感があった。テーブルには顔を真っ赤にして突っ伏しているソルと、大きな木製のコップでお酒を飲み続けているミィナの姿があった。


「あの、ミィナさん、そんなに飲んで大丈夫なの……?」

「まだ10杯目だし平気よ。というか"さん"付けで呼ぶのやめて。気持ち悪い。普通にミィナでいいわよ。レンやミレイはお酒いらないの?」


 ミィナは涼しい顔で片っ端からお酒を飲んでいた。これだけ飲んでいて表情一つ変わっていなかった。


「いや、俺らまだ19歳だし……」

「ウソっ!? 2人とも年下だったの!? ソルはともかくまさか21歳でパーティーの準年長者になるなんて……」

「ソルは見るからに大人だもんな」

「まあこれでも26歳らしいけどね、カイルが17歳だっけ?」

「よく覚えてますね」

「そりゃソルみたいに忘れっぽくはないもん。なーんだお酒の相手してくれる人いないのかぁ」

「でもソルも8杯目くらいまでは飲んでたよな?」

「見てなかったの? ソルのやつ3杯目から水しか飲んでないわよ。酒盛りしたいとか言うけどあんまりお酒飲めないのよ」

「ほとんど水かよ!? 人は見た目で判断出来ないな」

「ふぅ、お酒だけじゃ口寂しいわね。ねぇレン、ミレイとはどんな関係なの? 恋人? いつから一緒にいるの?」


 ミィナはニコニコニヤニヤしながらレンにミレイとの関係を尋ねた。


「人のプライバシーを酒のつまみにするなよ」

「でも、僕も気になります。それに、この状態のミィナさんメチャクチャしつこいですから」

「誰がしつこいって?」


 ミィナが凄まじい表情でカイルを睨みつける。


「いや、何でもないです……」

「あーあ、どうするミレイ……って寝とる!?」

「そりゃあ疲れてたんだろうし、何よりレンと会えて緊張の糸が切れたんでしょ」


 ミィナが自分の着ていた上着をそっとミレイにかけた。


「緊張? ミレイが……?」

「そっか、今日やっと会えたから分からないか。この子、レンに会えてから表情も明るくなったし、口数も増えたからさ。多分安心したのよ。それに、今日まで基本個人で行動してたし、何よりここ数日ほとんど寝てなかったみたいだしね……」

「ミレイさん、僕たちと会ってからもどことなく寂しげでしたしね」

(ミレイ……そうか、お前の方が不安だったよな。時間のラグがあってウィスタリアからも、エルムダールからすらも出れなかったんだし、ずっと1人だったんだもんな)

「あと、ソルにも感謝しときな。あいつが1人でいるミレイを見つけて、一緒に行動するかってスカウトしたらしいから」

「ソルが?」

「うん、コイツ後先考えないところはあるけど、面倒見は悪くないから。私もカイルも、ソルが声を掛けてくれたから一緒に賞金稼ぎとして行動してるし、今日だってホントは私の酒に付き合うためにわざわざほとんど飲めない酒飲んで潰れてるんだから……」


 ミィナがソルを褒めるも肝心の本人はいびきをかきながら寝ていた。


「やっぱり、人は見かけによらないな」

「さて、そろそろ宿に行くから。カイルはお金払ってきて、レンはミレイを運んであげな」

「あぁ……けどソルはどうする? 多分ソルも歩けないだろ?」

「いいわよ、私が運ぶから」

「……えっ?」


 そう言うとミィナはひょいとソルの肩を首に掛けて立ち上げるように持ち上げた。


「ああ、もう! 図体デカイと運び辛いわね、カイル、私の弓持って」

「う、うん」


 レンもカイルも、ミィナが軽々とソルを持ち上げる所作を見て圧倒されていた。


「何よ、アンタらじゃコイツ持ち上がらないでしょ?」

(レンさん、ミィナは僕らより腕力ありますよ。弓を使う前は武闘家だったって噂ですし)

(やっぱり……人は見かけによらない)


 そして夜も更けた頃、5人はギルドの近くにいる宿へ移動していった。

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