夜更かし─2025─
(何時だろ……22時32分……まだ10時半か)
明るい昼間はそうでもないのに、夜になるといつもそう。
時間ばかりが気になって、何度も何度も時計を見る。
いい加減デジタル表示にも慣れていい頃なのに、まだ私はアナログじゃないとわからない。パソコンの時計はデジタル、スマホに表示されるのもデジタル、いつか買ってもらった電子辞書の時計だって、もちろんデジタル。明るい時間のデジタル表示はまだわかるけど、18時を超えるとわからない。特に19時から22時。23時は24時に近いから逆にわかる。
手元の時計がデジタルだから、部屋にひとつ、大きなアナログ時計を置いている。私が小さいときからあるガラス製のやつで、りんごの形をしている。と言っても、線で書いたような枠の中に丸い時計が入ってるだけ。他のアナログ時計と比べても結構古いのに、いちばん重宝してたりする。あの時計がなくなったら、時間を忘れるかもしれない。
プルルル──。
スマホが鳴った。電話なんてほとんど来ないから、LINEに決まってる。
(ん……あ、ユミ……ん? “昨日のゼミの課題、やりかた教えて(>_<)”……課題?)
ユミは大学の同じゼミの子で、高校も付属で一緒だったりする。あの頃はただのクラスメイトだったのに、大学の学科が同じでゼミも一緒だってわかったときから、急に仲良くなった。別に嫌いじゃないから良いけど、ごくたまに変なときがある。
すぐにキーボード画面を出して、返信を打つ。
『ゼミの課題? そんなのあったっけ?』
確かに昨日はゼミがあったけど、課題は聞いていない。新年度だからみんなで気合いを入れて、確か30分くらいで終わりだった気が……。
【あったよー。来週までに調査結果出して英語でレポート書けって!】
『調査って何の調査? しかも英語でレポって……?』
私とユミが所属しているのは日本文学のゼミで、調査なんかない。まして英語でレポートなんて、あり得ない。
【言ってなかった? 英語と米語の文学を年代順に調べて時代背景も踏まえて考察しなさいって……】
『ユミちゃーん。あなたは何ゼミ? 日文でしょ?』
【あ! ごめん! 夢だ!】
ユミがどんな夢を見たのかは知らないけど、自分のゼミぐらい覚えておいてほしい。
ため息をついてスマホの画面を消して、私はまたパソコンの画面を見る。特に何をするでもなく、時間を見た。22時56分。ということは、もうすぐ11時。小さいときにはこんな時間が存在するとは思っていなかったけど、今は一日でいちばん大切な時間だ。昼間は外を走る車の音や子供の笑い声、それに来客があったりして結構うるさい。でもこの時間は、車はたまに走るだけで、考え事をするにはもってこいだ。
今日みたいに連絡が来るときは実はあまりない。だから大抵は大学の講義やその日の出来事を思い返したり、あるいは空想に耽るときもあったりする。そんなときに家族の誰かが話をしにきても、なかなか意味はわからない。頭の切り替えが昼間より悪くなっていて、話に相槌を打っていても内容を理解していることは少ない。
そうやっていつも時間が過ぎ、気付けば日付が変わっていることはもう普通。翌日に講義があるときはもちろん寝るけど、休みのときは寝られない。用事もないのにいつまでも起きて、気付けば2時・3時。夜更かしは身体によくないのに、ついやってしまう。レポートに追われていたりパソコンが壊れたり、そういう理由で起きているときもある。
(もうそろそろ寝ようかな……)
意味もなくいつまでも起きているのも嫌になり、私はパソコンの電源を切る。それまで明るかった画面は真っ暗になり、電気スタンドも消すと更に暗い。ノートパソコンを閉じて、コンセントも抜いておく。
部屋の電気も消したとき、
ブブブ──。
(またLINE……あれ? 電話……?)
電気は消したまま、私は電話に出た。
「もしもし……?」
『あ、杏美ちゃん? 起こしちゃった?』
「ううん。まだ起きてた」
かけてきたのはバイト先の男の子・リョウ君。彼は私より3つ年上で、でも二浪してるから学年は1つだけ上になる。かなり有名な大学に通っていて、専攻は東洋史。背は180センチくらいあって、狙ってる女の子は多い。私もそのひとり。
『明日、何か予定ある?』
「明日? 明日は……」
明日と言うより既に今日になるけど、午前中に買い物を頼まれていたような気がする。掃除機をかけておくように言われた気もする。けれどそれは私が空想に耽っているときに母親が言いにきていたもので、あまりはっきりしない。
『もしもし? 杏美ちゃん? 起きてる?』
「うん……ちょっと、寝かかってた」
実際、私の目はもうすぐ閉じてしまいそうだった。
『明日さ、どっか行かない? 2人で』
「うーん……ん? 明日? 昼からなら空いてるよ」
『あっ、本当に? 大丈夫? ……もしもし?』
「──ん……ごめん、眠い……」
何とか目を開けようと頑張っても、眠気はさめなかった。時間が時間だから仕方ないけど、電話中に寝るのは失礼だ。
『ごめんね、こんな時間に電話して』
私は睡魔に襲われてるのに、リョウ君は何故か元気だった。今日もラストまで入っていたはずなのに。
「ううん。それで……明日は……どこに行けば……いいの?」
『えーっと……えっ、ちょっと、杏美ちゃん? 杏美ちゃん??』
時刻は午前2時。まだ電話は終わっていなかったのに、私はもう起きていることが出来なくなった。
夜更かしは身体によくないけど、将来のためには良いかもしれない。嬉しさをいっぱい抱えて、私は夢の世界に落ちていった。
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