第68話 膨れ上がる想い
「栞。勉強続ける? それとも、ちょっと休憩しようか?」
栞の母が出て行って、固まっていた空気を溶かすように栞に問いかけると、栞は一瞬、顔をハッと広げて
「私はどっちでもいいよ?」
そう小さく返事をした。
「じゃあ、休憩にしようか。俺、ちょっと疲れちゃった」
そう言ってテキストを閉じて、栞の母が持ってきてくれたお茶とお菓子を、テキストが広がっていたローテーブルの上に置いた。
「ほい……」
「ありがと……」
栞の方の片付けが終わったのを見て、もう一方のグラスを渡すと、栞は両手で大事そうにグラスを受け取って、目の前にちょこんと置いた。
「……」
「…………」
お互いに何を話題にしたらいいのか分からなくて、沈黙の時間が訪れる。無言の時間がものすごく苦手な俺は、話題探しのために栞の部屋をざっと見まわし、その中でも本棚に目を止めた。木目調のシンプルな本棚には、たくさんのCoursieAilesの写真集がきれいに並べられていた。
「栞、生島さんの写真集買ったんだ?」
自然な感じで沈黙を破ると、
「う、うん」
栞はいつもの明るい表情を取り戻して、チョコレート菓子を小さな口に運んだ。
「すごく良かったよね? 可愛らしさと大人っぽさが感じれて」
「そうだね。生島さんの良さが全部詰まってた!」
「わかる!」
と、こんな感じで、いつも通りの推しトークを繰り広げて、タイミングを見て"しなきゃいけない話"を切り出した。
「そうだ。夏休み入ったらさ、夏祭りあるじゃん? あそこの遊園地で」
「そうだね」
「一緒に行かない?」
「え、いいの?」
驚いたように聞き返してくる栞。何をこんなに驚いているんだろう。
「いいの? って、栞は俺の彼女だろ?」
そう言って、胸が苦しくなった。
――夏祭りの日に栞を誘わなければ、栞は傷つかずに済む。
――だけど、あいつらとの関係は間違いなく悪くなる。
前なら考えなかったであろう想いが生まれて、心がズーンと重たくなる。心の奥に生まれている感情は、もう見てみぬふりが出来なくなるくらい大きさを増していた。
「せっかくだしさ、一緒に行こうよ。夏の思い出作り的な?」
「う、うん。じゃあ、一緒に行く……」
そう言うと、栞は恥ずかしそうに俯いて可愛らしくそう返した。
「じゃあ決まり。って、その前に期末試験だよな。頑張ろう」
「うん」
俺は、大きくなる感情にまた蓋をして、勉強会を再開した。
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