第63話 大掃除

「どうしよう、どうしよう……」

自分が蒔いた種なのに、私はものすごくテンパっていた。彼からはまさかのOKというメッセージ。明日、加藤君が部屋に来てしまう。あわあわしていると、母は

「どうなったの?」

と他人事のように食器を片しながら訊いてきた。

「明日、加藤君が来るって……」

震える声のまま母に言うと、

「本当に? やった! やっと加藤君の顔が見れる!」

母は想像以上にテンションを上げて手を叩いて喜んでいた。

「栞。明日、彼が来るなら部屋、片付けてきなさいよ? 意外とそうゆうの大事よ?」

母のアドバイスを素直に聞いて、私は部屋に急行した。

「片付け、片付け」

私は焦りに焦った頭のまま、部屋の隅々まで掃除機をかけて、その後に濡れ雑巾で水拭き。そして乾いた雑巾で乾拭きをして床をピカピカにした。机の上も丁寧に掃除をして、窓も丁寧に磨いた。推しの写真集や雑誌などが入った棚も、綺麗に陳列し直して、ベッドに腰を下ろした。

「こんなもんかな……」

今までで一番キレイな状態になったであろう部屋を見て、私は一息ついた。けっこう頑張ったから、何時になったかなと思い時計を見ると、もうすぐ二十一時を回ろうとしていた。

「ヤバい! お風呂!」

階段を一気に駆け下りて、お風呂に直行する。急いで脱衣して、大掃除で流した汗をシャワーで洗い流す。

「ふぅ……」

全身を洗い終えて、湯船にゆったりと浸かる。

「陽太君、明日、来る……」

カタコトの日本語が、浴室の壁に反響する。明日のことを考えただけで身体が火照ってしまって、私はいつもより早く浴室を出た。

「ふぅ~」

火照った身体を冷ますように右手をパタパタさせながらリビングに入ると、そこには仕事から帰ってきたお父さんの姿があった。

「おかえり、お父さん」

「ただいま、栞」

テレビを見ながら夕飯を頬張る父にそう言って、ソファーに身体を預ける。

「なぁ、栞。陽太君って、誰だ?」

すると突然、お父さんが彼の名前を口にした。

「え、え? な、何のこと?」

動揺を一切隠せないまま返事をすると

「彼氏か?」

心配そうな瞳がこちらにまっすぐ向けられた。

「ち、違うよ~。こないだお友達になった人」

苦しい言い訳をするとお父さんは続けて、

「その人が家に来るのか?」

そう聞いてきた。今の言葉から察するに、お父さんはお風呂での私のカタコトな日本語を耳にしてしまったんだろう。

「こ、来ないよ? お父さん、何を言ってるの?」

取り繕った笑顔で返すと、お父さんは少し安心した表情を浮かべて、

「そうか……」

そう言ってテレビ画面に流れるお笑い番組に視線を戻した。

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