第64話 お見通し?

 次の日。俺はいつも通りに授業を――。とはいかず、少し緊張したまま授業を受けて、昼休みも栞の目を一度もまともに見れぬまま過ごし、あっという間に放課後を迎えた。

「じゃあ、帰ろうか」

「うん……」

心なしか、栞の返事が少し上ずったように聞こえた。

「勉強会さ、本当に栞の家でいいの?」

改めて口にすると、先ほどまでの緊張感が余計に増大してしまったように感じた。

「い、いいよ。お母さんも加藤君に会いたいって」

栞の返答に、母に紹介するという大変な行為が行われることが頭によぎった。これをしてしまうと、ネタばらしの後、悲惨なことになる可能性がある。だから、

「やっぱ図書室にしない?」

と、少し弱気になってしまった。だけど、栞は一歩も引かずに

「嫌だ。家でやろう?」

そう言ってきた。普段、俺の提案にNOと言わない栞なだけあって、今回の意志が相当固いのだと、このとき感じ取った。

「わ、わかった」

手の震えを感じたまま、いつもは別れる栞の家の前で立ち止まった。

「ただいま~。あ、入って?」

先に玄関の扉を開けた栞に手招きされて、俺は恐る恐る栞の自宅へと足を踏み入れた。

「お、お邪魔します……」

ローファーを脱いで、玄関にしゃがみこみ、邪魔にならないところに揃えておいた。

「あら、いらっしゃい」

リビングと思われる扉が開かれ、中から栞に似た色白で美人な方が姿を現した。

「こ、こんにちは……」

なんて返したらいいのか分からなくて、とりあえず挨拶をして頭を下げる。彼女(仮)の母親の前だとしても、やっぱり緊張してしまうものなのである。身体が硬直して、呼吸が浅くなっているのをしっかり感じた。

「あなたが、加藤陽太君?」

栞の母親の優しい問いかけに、

「は、はい……」

と、気持ちの悪い間で返事をする。すると、栞の母親は小さく笑みを浮かべて、

「安心したわ」

そう小さく零してから、

「栞の彼氏、なのよね?」

と確認するように首を傾げてから、一歩こちらに迫ってきた。

「はい……。あの、栞は僕の彼女です」

自信なく返事をする。心の乱れがもろに反映されたような声が、少し廊下に反響してどこかに消えて行く。

「じゃあ、栞のこと悲しませたりしないでね?」

何かを見透かしたように、冷たい視線がこちらに向けられ、身体が更に強張り、呼吸がもっと浅くなる。

「お、お約束します……」

この先、確実に栞を悲しませることを分かっていながら、俺は震える声でそう返した。その言葉に栞の母親は、

「そう、安心したわ。栞のことよろしくね?」

先ほどより少し大きな声で言って、俺たちを二階へと促した。

「後でお茶とかお菓子とか持って行くわね?」

「は~い」

学校で見てるのとは違う、栞の新しい表情に胸が締め付けられるのを感じ、呼吸が苦しくなった。これが"恋"だと自覚する前に、その思考は打ち切られ俺は栞の後に続いて、一段ずつ階段を上った。

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