第58話 天使

 階段をなるべく急いで駆け下りて、靴を迅速に履き替え

「お待たせ……」

少し息を切らしながら栞の隣に並ぶ。そんな俺を見て栞は

「ううん。帰ろ?」

ふわりと優しく微笑んで、そっと手を差し伸べてくれている。西日に照らされるそんな優しい栞が、まるで天使のように見えた。

「う、うん」

その天使の微笑みに少し見惚れながら、俺は膝についていた手を離して、栞の隣をゆったりと歩き始めた。

「それでさ、テスト勉強の話なんだけど」

少し歩いて、その話を持ち出すと

「うん。亮太君たち、どうだった?」

栞は少し心配そうに視線を上げて俺を見た。その何気ない表情に、俺の胸が少し締め付けられた。

「あ、うん。大丈夫そうだったから、火曜と木曜に勉強会でどうかな?」

「わかった。じゃあ、その日は図書室で勉強会っていうことで」

栞はそう言うと、手帳にスラスラとペンを走らせて「よしっ」と言いながらパタンと閉じた。

「そうだ。栞って、どの教科が苦手なの?」

栞は、いつも真面目に授業を受けていて、小テストでも平均以上の点数を毎回取っているイメージだったから、純粋に疑問に思って聞いた。

「えっとね、国語? あとは英語」

「文系教科が苦手?」

「うん……」

「ちょうどいいじゃん! 俺は文系で、栞は理系。凸と凹がかみ合う。完璧じゃん!」

栞に向かって、科学的な大発見をした時のような、アニメの伏線を回収する前に見つけたような、そんなテンション高めの顔で言った。すると栞は、

「そうだね。お互い切磋琢磨だね」

小さく笑って、優しく返してくれた。そんななんでもない会話。なんでもない普通の表情に、何度も胸が締め付けられてしまう。

 ――これが、恋?

心に浮かんだ純粋な感情に、勝手にバツ印をつけて切り捨てる。

「おっと、もう家に着いちゃったね。それじゃあ、また明日」

「うん、またね」

栞に手を振って、俺は再び学校に戻った。

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