第56話 日常

次の日。俺はいつもみたいに登校をして、前と変わらぬ栞との会話を楽しんでいた。

「ねぇ今日さ、生島さんテレビ出るよね?」

「あれ? そうだっけ……」

「うん。栞が知らないなんて珍しいね?」

「私だって知らないことあるよ」

そうやって、いつもより少し笑顔の多い会話を遮るようにして、浩介たちが教室に入ってきた。

「おっす、陽太」

「おう、亮太。浩介と雄哉も」

「おう」

「お。おは~」

亮太と浩介はいつも通りのあいさつだったけど、雄哉のあいさつだけ明らかにぎこちない。

「あれ、今日は祐希ちゃんと一緒じゃないの?」

今頃気づいたのか、浩介が雄哉に問いかける。

「あ、あぁ。今日はちょっと予定合わなくてな」

首の後ろに手を持って行って、視線を逸らし、いつもより数段トーンの落ちた声。嘘を吐いているときの雄哉のお決まりの仕草だ。

「そっか。そんでさ、昨日のテレビの話なんだけど」

雄哉の話を聞いて、浩介は安堵の表情を一瞬だけちらつかせた後、さも何もなかったかのように無表情を作って、話の進路を真逆に変え自分の話題に持って行った。それに楽しそうに相槌を打つ亮太と栞。雄哉は嘘がバレなかったことにホッと胸をなでおろし、浩介の話に耳を傾けている。前とはちょっと形が違うけど、何も変わらない日常に、俺自身も少しホッとしていた。

 

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