第52話 やつの計略?

 栞を送る道。彼女は、俺が教室に戻った時から、だいぶ元気が無いように見えた。現に、今話していても、どこか余所余所しくて、笑顔にも力がなかった。

「栞、何かあった?」

さすがに心配になって尋ねるけど、栞は

「何でもないよ……?」

はぐらかすように見え見えの作り笑いを浮かべて、力なく返す。

「栞。公園、寄っても良いかな?」

「え?」

珍しい俺からの誘いに栞は驚いたように聞き返すが、俺は

「なんかブランコに乗りたい気分!」

そう明るく言って栞の手を引いて、小学生たちが楽しそうに遊んでいる公園に乗り込んだ。

『あ~! リア充だ!』

『ヒューヒュー!』

少しませた男子小学生たちが俺たちを見て冷やかしの声を飛ばす。

「なんか恥ずかしいな?」

俺はブランコを軽く漕ぎながら、優しく栞に訊いた。

「う、うん」

その問いにまた、ぎこちない返事。隣のブランコに座る栞は、ジッと地面を見つめたまま視線を動かそうとしなかった。

 ――まさか、祐希のやつ……

 栞の俺に対する態度、そしてここ最近の状況を考えて俺の頭の中に一つの仮説が立った。

 それは、祐希が雄哉に罰ゲームの件を聞きだしたのではないか、というものだ。

 最近、おかしいくらいに祐希は雄哉と行動を共にしていた。休み時間ぐらいならありえなくもなかったが、登下校まで及ぶとなると、さすがに違和感を感じる。この異常とも思える距離の詰め方で雄哉と親密になって、この件を聞きだす。

 辻褄は通っていると思う。となると、祐希はだいぶ頭を使ったみたいだ――。ってそんな場合じゃないんだった。

「なぁ、栞」

声を掛けても、栞はこちらに一瞬も視線を向けずに小さく「なに?」と弱々しく返す。

「栞。こっち見て?」

肩を叩いて、また栞に声を掛ける。栞は少し怯えた様子で、こちらにゆっくりと顔を向ける。そうすると、栞の柔らかい頬に俺の人差し指がツンと軽く触れた。

「引っ掛かった」

右頬が少しへこんだ栞を見て優しく微笑む。そこにいるガキみたいなイタズラ。そんな単純なものに引っ掛かる栞のこころは、本当に純粋なんだなって思った。

「へへ。引っ掛かっちゃった……」

力のない笑顔がまた俺に向けられる。その笑顔を見る度に、俺の心臓が強く握りつぶされる。今までに感じたことない感覚が、僕のこころを襲う。

 苦しい、悲しい、辛い、切ない――。全てが混ざった何とも形容し難い感情が、俺の心をすっぽりと包み込む。

 そんな、すっきりしない視界の中、栞のへなっとした笑顔の向こうで、きゃっきゃっと笑いながらサッカーボールを蹴っている少年たちが見える。その中の一人の不格好なフォームから放たれたボールが、勢いよくこちらに向かって飛んでくる。

「危ないです!」

小学生たちの慌てた声を聞いて、俺はブランコから立ち上がり栞の顔の寸前でボールを止めた。

「気ぃつけろよ~」

そう言いながら軽くボールを蹴り返して、俺は全然こっちを見てくれない栞の前にしゃがみこんで、栞の顔を覗き込んだ。

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