第51話 恐ろしい人物
「あ、ごめん。もうこんな時間だったんだ!」
私と話していた時よりも嬉しそうに、楽しそうに、声を弾ませて野田さんは加藤君の方にゆったりと歩いて行く。
「で、話って?」
「ん? なんだっけ。忘れちゃった」
おどけて笑う野田さん。さっきの女の子とは別人のように見える。
「はぁ……」
「なに、その反応」
「マジで呆れた。自分から呼び出しといて来ないし、言いたいことも忘れるし。ありえねぇわ」
「ごめん」
「てか、二人で何の話してたの?」
呆れ顔を笑顔に変えて、加藤君は私の方を見て尋ねてきた。
「何でもないよ。ね? 久保さん」
野田さんの魔女みたいな微笑みは、私に否定させることを許してくれなかった。
「う、うん」
加藤君の顔もまともに見ないまま、私は曖昧に返事をして俯いた。
「まぁ、女子同士の会話だし。訊くのは野暮だったわ。じゃ、帰ろうか。栞」
加藤君が私の名前を呼んだ。でも、胸の奥から湧いてくる嬉しいという感情を、今の私は素直に受け止めることができなかった。
「う、うん……」
小さく返事をして席を立つ。道を塞ぐ野田さんの横を通り過ぎようとした時、
「じゃあね、栞ちゃん」
野田さんに小声でそう言われた。なんでもないあいさつなのに、野田さんに言われると悪魔の囁きとか、死の呪文みたいに聞こえてきてしまう。私はその言葉に何も返さぬまま、加藤君の隣に並んだ。
「これでよしっと」
二人の凸凹な背中を見送って、私は小さくそう零す。これであいつも、陽太のことを信じられなくなって、最後は陽太と別れることになるだろう。陽太と私にとっては、願ってもないこと。
――あんな奴を、陽太が好きになるわけない。
私は心の中で自分に言い聞かせて、独りで教室を後にした。
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