第44話 反発心

 栞との電話が終わった。淋しいような、悲しいような、切ないような、そんな気持ちがごちゃごちゃに混ざって心の湖に静かに沈んで行く。

「俺、やっぱり……」

こないだ自分の口から飛び出した言葉が、頭の中に戻ってくる。

『栞、大好き』

何の躊躇もなく、ただ純粋に放たれた言葉。俺は自分の掌を見つめて、あの言葉をもう一度呟いてみる。そうすると、胸の奥がじんわりと温かくなって、胸がキュッと締め付けられるような感覚に襲われた。

「これが、恋なのか……」

小さく呟くと、身体がカァーッと熱くなってくる。

「アホか! んなわけない!」

心に決めた相手がいるわけでもないし、片想いをしている異性がいるわけでもない。後ろめたい何かがあるわけでもないのに、断固としてこれを恋だと認めたくない。そんなよくわからない反発心が俺に纏わりついていた。

「拓~。ご飯よ」

ヘンな考えを体の中から取っ払ってしまいたくて、頭をブンブンと振っていると一階から母の声が聞こえてきた。

「は~い。今行く」

首の動きを止め、冷静に返事をしてテキストを閉じる。テキストの下に隠れていた栞と撮ったプリクラを見て笑みがこぼれたが、反発心のせいで真顔に戻されて、俺は自室を後にした。

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