第43話 不安……
「はぁ、今日もいい気分!」
課題の合間に小さく伸びをして、大きく息を吐きだす。
加藤君の彼女になってから約一週間。私の人生、こんなにしあわせな時間があってもいいのかなって思ってしまうくらい、毎日が楽しい時間で溢れかえっている。加藤君が隣に居てくれることで、周りには亮太君たちが居てくれて、私の周りはたくさんの笑顔で溢れてる。私が幼少期に描いていた青春がいっぺんに叶ってしまった、そんな最高な日々に
「しあわせ~」
ふいに零れた心の声。その声に自分自身で照れてしまう。
目を閉じると、瞼の裏の暗闇に加藤君の笑顔が浮かんでくる。なんて幸せなんだろう、改めてそう思った。
「よし、勉強勉強!」
頭の中の夢の国から一旦、帰国して集中モードに頭を切り替えようとした時、後ろの小さなテーブルの上でスマホが細かく振動し始めた。せっかく集中しようと思ってたのに、そんな風に思いながらスマホを取って画面に表示された名前を見た。
「加藤君だ!」
予想だにしない出来事に手元がバタバタしている。それに、少しイライラしてしまっていた自分にいら立ちが湧いてきて、余計に思考が落ち着かない。そんな中、加藤君を待たせられない、そんな本能に近い何かが働いて、私は応答ボタンに触れた。
『もしもし、栞?』
「うん、どうしたの?」
電話越しだけど加藤君との会話。前よりも砕けた言葉が上手に使えているだろうか。
『なんとなく声が聞きたくて。もしかして勉強中だった?』
彼の一言にまた思考が停止する。
『声が聞きたくて』
少女漫画とか、恋愛ドラマとかでよく出てくるセリフ。中学生に上がったくらいの時から、実際に言われても嬉しくないんだろうなって思ってたけど、彼のその一言に良い意味で予想を裏切られた。
停止したままの脳。上昇していく体温。早くなる鼓動。
さっき加藤君はなんて言っていたっけ? それすらも思い出せないくらい、私の頭はオーバーヒートしていた。
『栞?』
彼の優しい声で、ようやく頭が動き出す。
「あ、ごめん、大丈夫だよ?」
さっきの会話を思い出して、なんでもないように返事をする。
『そっか。良かった』
すると彼は、何故か安堵の言葉を漏らす。
「加藤君は何してたの?」
『俺は課題を進めてた。栞は?』
「私は……」
考えながら勉強机から離れてベッドの上に腰を下ろす。
「音楽聴いてた」
『そっか、何聴いてたの?』
「う~んとね、日常」
『栞、その曲好きって言ってたもんな。俺もテンション上げたい時とか聴く』
「私もだよ」
彼と趣味とか、価値観がとても似ていてすごく嬉しい。こんな気持ちは生まれて初めてだ。
『じゃあ、栞の邪魔しちゃうのも悪いし切るね?』
「え?」
――私は全然いいのに……
想いは言葉にならなくて、『じゃあ、また学校で』彼のその言葉で電話が切れてしまった。
心に穴が空いてしまったよう。
幸せな時間はあっという間に過ぎ去ってしまった。
どっちもどこかで誰かが言っていた言葉。これまでは自分とは無縁な言葉だと思ってたけど、今日それがようやく理解できた。
「また明日……」
その言葉はいつまで聞けるんだろうか。もしかしたら、今のが最後かもしれない。
心に空いた穴は、私の心に訳の分からない不安の感情を作りながら穴を広げていた。
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