第35話 恐怖

「加藤君、かっこよかったなぁ」

自室のベッドの上で枕を抱きしめながら彼の顔を思い浮かべる。

『俺の彼女』

幼馴染みの野田さんの前で堂々と、はっきりそう言ってくれたことがとても嬉しかった。言葉にしてもらって、改めて加藤君の彼女なんだなって実感できた。

「でも……」

加藤君の優しくて温かい笑顔と共に、野田さんの冷徹な無感情の笑顔が対になって頭に蘇ってくる。

「野田さん……」

彼女の存在が、どうも頭から離れてくれない。加藤君の笑顔を思い浮かべては、野田さんの暗い笑顔がそれを塗り替えて、加藤君の声を思い出しては、野田さんの冷たい『よろしくね』が打ち消してくる。

「嫌な予感……」

虫の知らせ? 女の勘? みたいなものを感じ、私は怖くなってふかふかの毛布にくるまった。


  目を開けたとき、私は夕方にタイムスリップしてしまっていた。

「栞。ご飯よ?」

母の声が扉の奥から聞こえてきて、私は重たい瞼を擦りながら「うん」と小さく返事をしてベッドから起き上がった。

『よろしくね。久保さん』

野田さんの冷たい声が、暗い笑顔が頭に浮かんで、私の身体が反射的にビクッと震えた。

「大丈夫……。加藤君の幼馴染みが悪い人なわけないもん……」

私はそう信じたくて、自分に言い聞かせるように小さく言葉にして部屋を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る