第30話 ハイテンション!
「ただいま」
「おかえり。それで、デートどうだった?」
玄関の戸を開けると、すぐに母がリビングの顔から顔をひょっこりと出して、目を輝かせながら訊いてきた。
「う~んとね……。すごく楽しかった!」
私は、胸に抑えていた感情を爆発させて母に抱き着いた。
「よかった! お母さん心配で心配で……」
母はすごく安心した笑顔を浮かべて、ほっと胸をなでおろしていた。
「あら。CDの袋持ってどうしたの?」
母は、私の手に大事そうに握られている黄色の袋を見て、不思議そうに尋ねてきた。
「CDは明日、買いに行く予定じゃ」
少し困惑した様子の母に、
「実はね――」
私は、表情をいっぱいに緩ませて、加藤君もCoursieAilesが好きなことを話した。
「そうなの。良かったじゃない、趣味も合うみたいで」
「うん……」
彼の楽しそうで、嬉しそうな笑顔が頭の中に蘇ってきて、身体が少し熱くなる。
「あ、お父さんにこのことは……」
別に、彼氏が出来たと言っても何が起こるわけでもないと思うんだけど、ちょっとだけ心配で母に口止めをした。でも、いつかちゃんと話さなきゃな。
「分かってる。内緒にしておくわ」
母の優しい笑顔に安心して、私は落ち着いてソファーに身を預けた。
「栞。いつもみたいにDVD見ないの?」
母は、台所で手を動かしながら訊いてくる。
「あ、そうだった!」
加藤君との思い出から現実に戻ってきて、私はパチッと手を叩いて立ち上がった。
「特典、特典」
特典の内容に胸を躍らせながら、加藤君も見てるかな? なんて心の中で加藤君への想いを膨らませていた。
CDケースを開いたときにとび出してきた生島さんの弾けんばかりの笑顔。その奥に、加藤君の優しい笑顔が浮かぶ。自引きした時よりも断然こっちの方が嬉しい。当然、彼からの初めてのプレゼント? なんだから。
テンション上がりっぱなしでDVDを見ていると、香ばしい醤油の香りが鼻腔をくすぐった。
「お母さん。今日の晩御飯は?」
「肉じゃがよ」
それは良い匂いがするはずだ。だって、母の作る肉じゃがは日本一。いや、世界一だから。
特典映像と、晩御飯の肉じゃがで更にテンションが上がった私は、曲に合わせて自分勝手にコールをつけて、テレビのリモコンをサイリウム代わりにして映像をとことん楽しんだ。
『栞。遊ばれてなきゃいいけど……』
心配する母の声も、今の私には一切、届くことはなかった。
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