第29話 おわかれ

「それじゃあ、また学校で……」

「うん、またね」

俺は責任を持って栞を家まで送り届けて、独りで家路についた。栞を送って、独りで帰るなんていつものことなのに、何故か今日はものすごく淋しく感じる。

「ハァ……。てか、幽霊のやつ。めっちゃ可愛くなってた……」

頭の中で今日隣に居た"彼女"の顔を思い出しながら、独り言ちる。頭の中で流れる今日のキラキラした思い出。その映像でずっと僕の隣に映りこんでいるのがあの"幽霊"だと思うと少し変な感じがする。けど、その違和感を凌駕する栞のかわいくて温かい笑顔。その顔を思い出すだけで、胸の奥がじんわりと温かくなった。

 今日の楽しい思い出を何度も頭で再生しながら歩くと、あっという間に家に着いた。

「ただいまぁ」

「おかえり。今日はどこ行ってたの?」

リビングに入って早々に母が聞いてきた。

「ん~と、駅前に行ってこれ買ってきた」

俺は目を刺す黄色の袋を顔の前まで持ち上げた。

「今日は新曲の発売日だったわね」

「そ。だから、部屋で特典見てくるわ」

「じゃあ、ご飯になったら呼ぶわね?」

「あいよ」

適当に返事をして、僕は足早に自室に向かった。

「はぁ~! めっちゃ楽しみ!」

一人でテンションを上げて、小さなDVDプレイヤーにディスクを入れ、再生させた。

「栞も今ごろ見てんのかな?」

ぼんやり窓の外を見て、彼女に想いを馳せながら再生された映像を、ややテンション高め、独り言多めで鑑賞した。

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