六章 追憶回想

六章_追憶回想


 冥界の王によって全ての世界は黒く染まり全ての生き物は死んだ。代行人と地獄を失った影響は天界に届き天界から別世界へと連鎖が起き瞬く間に滅んでいった。一連の流れを見届けた冥界の王は鼻で笑った。


 『どうだ!この景色絶景だよ。きさらぎ、君も来たらどうだい?最高でしょ?』

 「......」

 『黙ってないで何か言ってよ?』

 「うっ!話す事なんて何もない...」

 『君の恋人を殺したことまだ怒ってるのかい?そんな君のために首だけを残したじゃないか?足りないなら安全地帯に飛ばされたあの異形の三体に首を並べて』

 「ふざけないで!」

 『ごめんごめん。君が中々話し相手になってくれないからさ~。*****は記憶を消してやり直している最中で眠っているし、化け物は皆言葉を話さないし、代行人は魂事消したからもう居ないし、あの子供は化け物のおもちゃだし、つまらないんだよね~。君は悪魔君しか心を開いてくれないし暇なんだよ。これ返すね~』

 「フジニア!彼をぞんざいに扱わないで」

 『だってもう死んでるじゃん?』

 「あなたは人間じゃないわ。こんなことが出来るなんて」


フジニアの首をきさらぎに向って投げつけた。きさらぎは受け止めると大事そうに抱きしめた。フジニアと自分に対する態度が気に食わない冥界の王はきさらぎに言った。


 『人間だよ。元だけどね...今はなんだろう。冥界そのものになっちゃった』

 「あなたは一体何者なの?どうしてここに落とされたの?マジシャンと何の関係があるの?」

 『それを知って何になるのかな?君はどうせ空っぽになるのに』

 「だって...あなたがマジシャンに対して行う態度は他とは違う。あの態度はまるで...大切な人に...恋人にする態度だから」

 『本当に君は鋭いね~さすが...レイチェルの生まれ変わりだ』

 「レイチェル?生まれ変わりってどういうこと?」

 『はあ...どうせ忘れるし時間つぶしにちょうどいいか。全部話してあげるよ。僕とレイチェル。それから忌々しい代行人との関係を...』

 『君たちがマジシャンと言う異形の本当の名前はレイチェル。彼女は元人間で』

 「ちょっと待って...マジシャンが彼女?人間って...異形じゃないの?マジシャンは男の子じゃないの?」

 『そこから説明しなければいけないね。本当の名前はレイチェル、レイチェル・フレイバー。僕の幼馴染で元人間の女の子だよ』

 「女の子...マジシャンが異形じゃなくて元人間...じゃあ私と同じ...」

 『そう君と同じ元人間の異形だよ。悪魔と出会い死んで異形に生まれ変わった。唯一君との違いは悪魔に人生を狂わされ殺されたことだよ。悪魔の異形...代行人によってレイチェルは殺されて人ならざる者にされた。魂を書き換えられて異形にされただけじゃなく記憶も性別も何もかもあいつが作り替えた。僕は間に合わなかった。彼女を守るどころか守られて駆けつけた時には彼女はもう死んでいた。彼女を殺した罪を僕は背負わされて冥界に落とされた。冤罪で冥界に落とされてから早数百年この怨みを忘れたことは無かった。真っ黒な世界とドス黒い怒りで冥界を支配し、冥界そのものになった。それからはずっとレイチェルに会いたい思いだけで生きてきた。ここから出られない。ずっと出るための策略を考えていたら君を見つけた。レイチェルの魂の生まれ変わりであるきさらぎ...君を』

 「私がレイチェルの生まれ変わり...私を見つけた...だから私を依り代に」

 『君には悪いけど僕とレイチェルのために犠牲になってもらうよ』


冥界の王はきさらぎ顔に手を当てると意識を保てなくなり気を失った。気を失ったきさらぎは抱えていたフジニアの首を落とした。気を失ったきさらぎを抱えた冥界の王は眠るマジシャンの傍に彼女を寝かせた。化け物たちは様子を伺っていたが冥界の王が下がる様に指示を出すと仕方なさそうに去っていった。立ち去る化け物どもを汚物を見るように視線を送った。


 『レイチェル...』


眠るマジシャンの名前を呼ぶと冥界の王はその場を後にした。放置されたフジニアの首はきさらぎの傍に転がった。



 きさらぎは不思議な夢を見ていた。今から数百前...人類が異形を目視できる時代。異形と人類は手を組み異形&人類対悪魔の異人戦争が勃発していた。悪魔を根絶やしにするため人々は武器を取り異形たちと共同していた。


 (これは夢?唯の夢には思えない。私の体は透けていて透明人間のようだ)

 (見たことが無い世界なのにどこか懐かしく感じる...?誰か来る)

 (あれは...私?)


その夢は不思議できさらぎの体は透けていた。周囲の生き物はきさらぎの存在を感じず見えていない。それに気づいたきさらぎは様子を伺っていると背後から物音が聞こえてきた。振り返ると自分と瓜二つの顔をしている女性が立っていた。女性は背後に居る人物に気づくときさらぎの体を通りすぎ駆け寄った。きさらぎが振り返るとそこにいたのか悪魔の姿の代行人だった。


 (代行人?いや、悪魔なんだ。という事はこれは夢じゃなくて誰かの過去の記憶...もしかして私に生まれ変わる前のマジシャン、いやレイチェルの過去の記憶だ。生まれ変わっても私の記憶の薄れたカケラとして覚えていたんだ。きっとマジシャンが元に戻された影響で思い出したんだ)


きさらぎは幸せそうに話す悪魔の代行人とマジシャン..人間のレイチェルを見た。その姿は過去の自分たちのようで懐かしさと切なさを感じた。


 (二人とも幸せそう...それがあんな結末になってしまうなんてあんまりだよ。でも冥界の王は冤罪で冥界に落とされたって言っていたけど本当に代行人がレイチェルを殺してマジシャンにしたのかな?)


きさらぎは直接代行人と接した機会はなく、本質は分からないがマジシャンを大切に思っていることは痛いほど理解している。そんな代行人がマジシャンを手にかけるなど信じられなかった。


 (でも...冥界の王が嘘を言っているようにも思えなかった。真実は一体どうなんだろう...)


きさらぎがそう考えていた時ふと視線を感じて顔を向けると遠くの木の傍に身を隠した人間の青年を見つけた。青年は悪魔の代行人を睨みつけていた。


 (あれは人?代行人を睨んでる。あの視線...異物を見るような睨みつける表情は見たことがある。もしかして...彼が冥界の王)


冥界の王は優しそうな好青年な見た目をしていた。代行人を睨みつけているがレイチェルには不安、心配する視線や表情を見せていた。二人に向けた視線に当人たちは気づかないまま森の奥に行ってしまい青年は顔を下げるとどこかへ行ってしまった。


 (行ってしまった。代行人とレイチェルは森で...冥界の王は別々...)


きさらぎは森の奥に顔を向けると彼らは楽しそうに森で過ごしていた。対する冥界の王_青年はは寂しそうに木を斧で切り落していた。青年はレイチェルの名を呼び心配そうな表情を時々見せていた。


 「レイチェル...あいつは異形で悪魔なんだぞ...」

 「俺はお前が...」


懐からロケットを取り出すと中を開けた。中には幼いレイチェルと青年二人の写真が飾られていた。


 「悪魔なんかに負けない...」


飾られていたレイチェルの写真を優しく撫でた青年は再び斧を持ち木を切り始めた。


 (そうか...冥界の王はやっぱりマジシャンのことが好きだったんだ。だからこそ...あの視線はマジシャンを想ってからこそなんだ...)

 (でも...マジシャンいやレイチェルはきっと悪魔の代行人のことが...代行人もレイチェルが...)


叶わない恋の切なさを感じていた背後に感じたことのない嫌な圧を感じたきさらぎは振り返る。そこにはどこか見覚えのある異形が物珍しそうに青年を見つめていた。その瞳は好機で愉快そうだった。まるで目の前で絶好の玩具を見つけたように高笑いをした。その異形は青年に近づいた。きさらぎは嫌な予感がした。青年を止めようとしたが体が透けてしまう。これは過去の記憶...声も姿も見えず聞こえない。


 「ダメ...言っちゃ...聞いちゃダメ!」


目の前で青年が警戒しながら異形たちの話しを聞く。青年は最初は信じなかったがレイチェルの名前を出されたことで顔色を変えた。悪魔を遠ざけてレイチェルを救くうことができると聞いた青年はその話しを信じてしまった。騙されている事にも気づかずに手を握り契約してしまった。その光景が壊れた時計のようにゆっくりと動いて見えた。


 「ダメエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」


きさらぎは叫びながら何でも青年の体を掴もうとしたが掴むことが出来ず場面が変わった。


悲惨な叫ぶ声が聞こえ気づけば大雨が降り続けていた。


 (ここは...!)

 (嘘...マジ...レイチェル...)


マジシャン_レイチェルの体は無残にも化け物のような刃物で貫かれていた。地面に倒れ血が溢れて止まらない。彼女の体を追い打ちをかけるように大雨が当る。人では決して傷つけられないほどの大傷だった。まるで悪魔のような化け物に襲われたようだった。


 (この傷...人間じゃ絶対に傷つけられない傷だ。まるで悪魔みたいな大きな異形じゃないと傷つけられない...え?悪魔みたいな...悪魔...!)


きさらぎは代行人を見るとおぞましい姿に思わず息を飲んだ。体が怪物のように大きくなり両手足が恐竜のように鋭くなり体はレイチェルの血で真っ赤に染まっていた。両手はレイチェルの血肉がこびり付いていた。


 (代行人...その姿。冥界の王が言っていたことは本当なの?レイチェルを殺したのは...代行人だったんだ)


信じられないと思いつつ代行人を見たきさらぎ。代行人はレイチェルに近づくと彼女に触れようとした。が青年に石を投げつけられて出来なかった。代行人はゆっくりと青年の方に顔を向けると驚いたように動きが止まった。きさらぎは代行人の背中で青年の姿を見る事が出来なかった。代行人はゆっくりと視線を青年に定めると次の瞬間青年に飛びかかった。青年の姿は代行人で隠れて見ることが出来なかったが彼の発する悲惨な叫び声がその場に響いた。


 (代行人...)

 

きさらぎが消えない声で呟くと代行人は顔だけをきさらぎに向けた。その横顔はかつてフジニアが人を襲い、自身に馬乗りになった時と同じ表情をしていた。


 (声は姿も見えず聞こえないはずなのに...フジニアと違って怖い...)


フジニアと同じ姿の悪魔であるはずなのに恐怖を感じたきさらぎは無意識に怖いと口にした。それを感じたのか代行人は青年を見ると地面に触れ大穴を開ける。青年は弱弱しい声を出しながら手を伸ばし代行人を掴んだ。


 「許さない...お前に必ず復讐...して..やる...」

 「彼女を..助け...レイチェル...」


その言葉を言い残して青年は大穴に落とされた。青年が落とされると大穴は冥界に変わり冥界の化け物たちの手が青年を捕える。化け物たちは青年の体を貪り喰らい付く。青年は叫び声を上げながら冥界に落とされた。きさらぎは手を伸ばしたが間に合わず大穴は塞いで無くなってしまった。


 (そんな...こんな結末なんて...冥界の王は...)


塞いで元に戻った地面をしばらく見つめたきさらぎは振り返り代行人を睨みつけようとしたが出来なかった。代行人は青年に必死に悩まりながら命懸けでレイチェルの傷を治そうとしていたからだ。彼の悲惨な声と共にもう一人の代行人と仲の良い二人悪魔がやってきた。彼らはレイチェルの名前を呼んでいた。傷跡を押さえて助けようとする姿にきさらぎは何も言えなくなってしまった。


 (代行人はずっと冥界の王に謝ってる。冤罪で落としたんじゃなかったんだ。何か理由があったんだ。冥界の王は冤罪じゃない。代行人たちの様子を見てなんとなく理解できた。けど...結末は変わらない。冥界の王が冥界に落とされたことや代行人が冥界に落とした事実は変わらない。これは...)


勘違いが生んだ悲劇なのだろう。代行人も冥界の王が互いにマジシャン_レイチェルを大切に思っていた。代行人と青年のやり取りを見ていれば代行人が青年を冤罪で冥界に落としたように見えるからだ。きさらぎは再び代行人らに目を向けた。彼らの悲惨な声と無残に横たわるレイチェルの姿に胸を打たれた。


 (マジシャン...)


胸を貫かれたマジシャン_レイチェルの傷は一向に治らずむしろ悪化していた。このままでは助からないだろう。取り乱した代行人に二人の悪魔が話しかけた。自らの命を懸けてレイチェルを助けようと提案した。代行人の二人は止めたが彼らの意志は固く代行人たちは了承した。悪魔の二人は顔を上げると優しそうに代行人を見つめた。代行人たちは二人の悪魔の名前を呼んだ。


 『カルベローナ...』

 『グリンマイル...』


 (カルベローナ...グリンマイル...!嘘...あれは...)


きさらぎは彼らの名前と顔を見るとそれは見覚えのある二つの異形の顔があった。


 (カーナとグリンにそっくり...そっかそう言う事だったんだ。幽霊列車で魂を繰り返していたからフジニアやカーナ、グリンたちを見た時に初めてなのにどこか懐かしさを感じてた。私...初めてじゃなかったんだ...フジニアもカーナやグリンも出会っていたんだ。生まれ変わっても魂は覚えていたんだ)


悪魔の二人は幽霊列車の異形であるカーナとグリンに瓜二つだったのだ。彼らの姿を見たきさらぎは確信した。幽霊列車のモデルになった異形は魂が変わる前から出会っていたのだ。きっと代行人は気づいていたのだろう。それを口にすることは分かったようだ。悪魔の二人は命を懸けてレイチェルを救い異形にした。その際記憶や魂は受け継がれなかったのかもしれない。姿や見た目は同じでも違う異形である彼らのことを考えていたのかもしれない。目の前で悪魔の二人が命を懸けて異形にしている瞬間を見届けたきさらぎは目の前が真っ黒になった。


 「ここは...」


きさらぎが目を開けると冥界に戻っていた。ただの夢とは思えず起き上がり自身の近くで寝かされているマジシャンを見た。


 「マジシャン...レイチェル。あなたは人間だったんだね」


 (マジシャンは人間の女性だった。レイチェル・フレイバー、可愛らしくていい名前。どういう経緯で大怪我を負ったのか分からないけど死にかけた。マジシャンを救う前に冥界の王とトラブルになった。代行人の背中で見えなかったけど態と冥界に落としたようには見えなかった。始めは意図的に落としたように見えたけどそうじゃなかった。勘違いが生んだ結果なんだと思う。代行人の力を持ったとしても彼女を救うことは出来なかった。だからあの二人が命を懸けて救ったんだ)

 (それがカーナとグリンと瓜二つの異形なんて思わなかった。フジニアだけじゃない。私は二人と出会っていたんだ。私自身が忘れていても魂は覚えていたんだ)


眠るマジシャンの顔をまじまじと見ると薄っすらと自分の面影を見えた。きさらぎは自分とマジシャンが本当に生まれ変わりであると実感した。


 「マジシャン...フジニア...私...一体どうすればいいの?」


きさらぎは横たわるマジシャンの片手とフジニアの首を優しく抱きしめて静かに涙を流した。きさらぎが流した涙はフジニアの額にこぼれた。きさらぎは気づいていなかったが虚ろを向いていたフジニアの目に微かに光が指した。




 『どうして!どうして!どうして!上手くいったはずなのに...体が崩れて...』


 冥界の王は巨大な岩に腰かけると崩れかける体を凝視して焦っていた。崩れ落ちそうになる片手を握りしめて押さえると悔しがり片手を打ち付けた。


 『あいつのせいだ。あいつの...代行人のせいだ。あいつが何かしかけたんだ。あいつがただ冥界に落ちてきたとは思わなかったけどここまで陰湿なんて...本当に腹立つ。もう時間が無い...仕方ない。中途半端だけどやるしかない!』

 『...ごめん』


冥界の王は遠目からきさらぎや横たわっているマジシャンを見て歯を食いしばるときさらぎの元に向って歩き出した。


 「マジシャン...フジニア...え?きゃあ!」


顔を下げて彼らの名前を呼ぶきさらぎは背後に迫る冥界の王に気づかなかった。きさらぎは反応に遅れたため片腕を強く掴まれた。


 「いっ痛い!離して!」

 『離すわけないだろ。君には悪いけど状況が変わった。代行人の奴め...僕に何か仕掛けやがって...体がもたない。この体が果てる前に全てを終わらせる』


冥界の王はもう片方の手できさらぎの首を強く掴み絞めた。


 「苦し...い...」

 『君の記憶も感情も全て空っぽにして無くしてやる。異形から人間に魂を戻してレイチェルを元に戻す!』

 「待って!まだマジシャンが完全に戻った訳でもない、私が完全に空っぽになった訳じゃない。そんな中途半端な状態でそんなことしたら...私もマジシャンも魂だけじゃない、存在自体無くなっちゃう!」

 『そんなことない!僕ならやり遂げられる!フン、そんなこと言って自分が消えて無くなりたくないって見え見えなんだよ!』

 「私は...そんなつもりじゃ...」

 『だいたい君はレイチェルの生まれ変わりじゃないか。レイチェルが死んで異形にならないと君は生まれてこないんだよ。僕が冥界に落ちて地獄を見なきゃ君は生まれない。内心じゃ落ちて死ねばいいって思ってるんだろ!俺たちを差し置いて生まれ変わったお前はあの悪魔と幸せになって...異形に生まれ変わって記憶も性別も何もかも忘れず変わらないなんてそんな...そんなこと合っていい訳ない!』

 「あ...ああ...違...」


きさらぎは否定したかったが冥界の王に言われた言葉が木霊し苦しくなった。冥界の王に言われた言葉通りマジシャンが異形となり冥界の王が冥界に落ちなければきさらぎは生まれてこない。その事実にきさらぎは何も言えず俯いた。


 『ほら!何も言えないじゃないか。君は黙って依り代になればいい!』

 「はあ...はあ...待っ...う!」


冥界の王はきさらぎの片腕を離すと片腕を漆黒の炎を纏う。纏った片腕を握ると夢で見たように巨大で鋭利な片腕になりきさらぎを貫いた。体を貫かれたが痛みは感じず力を失ったきさらぎは崩れ落ちそうになる。冥界の王はきさらぎの掴んだ首を離した。きさらぎは地面に打つ付けられると感じたことのない痛みが襲った。痛みに悶えていると今までの記憶が大量に頭の中に流れて消えていく感覚に襲われた。


 「何これ?頭が苦しい...記憶が大量に流れてくる...」

 『安心してよ。その苦しみももう終わる。その苦しみが無くなった時君は空っぽになる。君は消えて無くなり魂も存在しなくなる。君が最初からこの世に生まれて来なくなるんだ。そうなれば皆の運命が変わる。君と関わった全ての異形の時間が変わる。レイチェルも代行人もそれから君の愛する異形フジニアも。彼らは愛を知らず孤独で人間を恨み殺戮する悪魔そのものになる。運命とは残酷だよね。君が生まれてこなければ幽霊列車が誕生せず悪魔が死神になり大罪を犯すことは無かった。僕も冥界に落とされることも、地獄の異形が死ぬことも、世界が冥界で染まることもないなんてね。本当...運命何て嫌いだよ。君には僕らを差し置いて幸せになった責任を果たしてもらうよ!』

 『さて、次はレイチェルだ』


冥界の王はマジシャンに近づくと腹部に手を当てると漆黒な炎が体を包み込んだ。時間をかけていた能力を速めたことでマジシャンの魂にブレが出て歪んで見えた。その歪みを冥界の王は気づかない。


***


 きさらぎは人間から異形に転生する時の記憶を微かに思い出した。(会話のみ)


 『いいか、よく聞くんだ。本来、人から異形に転生することはできない。人の理に反する禁忌行為だ』

 『記憶や性別など全てを忘れてしまうがそれでもいいか?』

 「はい。覚悟の上です。構いません!」

 『では始める。きさらぎここへ...』

 『待ってください!ならば私の命を使ってください!』

 『お前「堕天使」...自分が何を言っているのか分かっているのか?それをすればお前も...』

 『覚悟の上です。私は彼らの人生を自分の私利私欲のために傷つけてしまいました。その責任を果たしたいのです。彼女が助かるのなら私の命で償います』

 『覚悟は出来ておるようだな』

 『はい。当にできております。かの者をお助け下さい』

 「堕天使...ありがとう」

 『僕の命一つで君を救えるのならお安い御用だよ。安心して...君は記憶も性別も忘れない。生前かけた能力で君の人生の歯車を正しい時間に戻したんだ。君の魂は本来の自分を取り戻している。そうすれば転生しても何も変わらない自分でいられるはずだよ』

 「本当にありがとう堕天使!」

 『君に感謝させるのはむずがゆいな...彼を助けたくて君を追い詰めた能力が結果的に君たちを救うカギになるなんてなんて皮肉なんだろうな』

 『彼には償い謝り切れないことがたくさんある。それを少しづつこんな形だけで返せてよかった。もし、覚えていたら彼に今まで済まなかったと謝っておいてくれないかな?』

 「もちろん。必ず伝えるわ」

 『それは良かった。君の魂は人間からヴァンパイアに生まれ変わる。それはどの時間でも時空でも例外なく作用する。一度儀式をすれば二度と戻れないよ。それでもいいんだね』

 「はい」

 『分かった...気を付けて欲しいのは異形の君が人間に戻ることは出来ない。条件はあれば異形が転生前に戻ることは可能。だが人間の場合はそうはいかない。一度完全に死にその魂を別の生き物に生まれ返させるんだ。人間だった魂は消失する。もし、人間に戻れば無条件で実態を保てず魂も身体も消える。覚えておいてくれ...』

 「分かりました」

 『必ず幸せになってねきさらぎ...』


***


 「待って!人間だった異形を再び人間に戻したらその魂や体は実態を保てずに『うるさいって言ってるだろ!』きゃあ!」


 憤怒した冥界の王はきさらぎの頬を切り飛ばすと数回足蹴りした。


 『口答えするな!君はレイチェルの依り代なんだよ。その体を傷つけさせるな!君の言葉なんて聞きたくない!早く消えろよ!』


痛みに耐えるきさらぎは冥界の王を睨みつけた。きさらぎに睨みつけられ逆上したのかきさらぎの髪を乱雑に掴む。ミシミシと髪がちぎれる音が聞こえてくる。きさらぎは痛みに耐えて睨み続けた。


 『睨むな!その顔で、レイチェルの顔で僕を睨むな!』

 「やめないわ...」

 『この!』


拳を構えてきさらぎを殴ろうとした直後、マジシャンの魂は完全に人間に戻り姿も人間のレイチェル・フレイバーとなっていた。


 「マジシャン...魂が元に...」

 『これで上手く行くぞ!もう君の事なんて関係ない!早く同化させる!』


きさらぎの髪を掴んだままマジシャン_レイチェル・フレイバーの傍まで引きずると眠る彼女の傍まで顔を近づけさせた。冥界の王はレイチェルの頬を優しく撫でるとその体は光輝き一つの球体となった。目の前の光景に唖然として動けないきさらぎの顎を無理やり掴むと球体を口に押し付けた。


 「な、なにを...」

 『それを食べるんだ。そして一つになる。そうして完全体となりレイチェルは復活する。さあ、食べろ!』

 「いやあああああ!」


きさらぎは抵抗したが腹部を数回殴られてる痛みでせき込み口を開けたところを放り込まれた。きさらぎは抵抗したが冥界の王が馬乗りになりその口を塞いだ。きさらぎは苦しさに涙が溢れだし球体を飲み込んでしまった。飲み込んだ瞬間体が引き裂かれるような痛みが痛感し体を両手で押さえる。痛みに耐えるきさらぎの姿に歓喜した冥界の王は喜び舞い上がる。きさらぎは消える記憶や痛みに苦しみながらフジニアのことだけは忘れまいと顔や名前を呼んだ。しかし、覚えのない懐かしい記憶が無い入り込みきさらぎの最期に記憶も消えてしまった。きさらぎは大粒の涙を流しながら最後にフジニアの名前を呼んだ。


 「フジニア...フジ...ニア...」


まるで最後の蝋燭の火が消えたようにきさらぎは倒れると雰囲気が変わった。見た目は同じだが別人のように生まれ変わった。冥界の王はきさらぎが完全に消え死んだことを確認し勝利の笑みを浮かべ最愛の人が目を覚ますのを今か今かと待っている。その体はゆっくりと痙攣し目を開けた。もうその人物はきさらぎではなかった。魂と存在もレイチェル・フレイバーに生まれ戻っていた。全て上手く行った計画に冥界の王は奇声をあげて喜び腕を上げた。目を覚ましたレイチェルは不思議そうに冥界の王を見る。一人で舞い上がっていたことに気づいた冥界の王は彼女に謝ると話しかけた。


 『ごめんごめん。一人で舞い上がってごめんねレイチェル』

 『ずいぶん待たせてごめんね。僕が分かる?こんな姿だけど君の幼馴染の...「シリアス...」え?覚えていてくれたの?』

 「.........」

 『そうだよ。君の幼馴染のシリアス・ラベンダーだよ。訳あってずっと離れていたけどもう大丈夫。僕がレイチェルを守るからね』


冥界の王はそう言うとレイチェルの両手を優しく掴むと彼女は答えるように聖母のように微笑むとゆっくりと言葉を話した。


 「シリアス...お帰り」

 『レイチェル、嬉しいよ!ただい...え?レイチェル...』


答えたレイチェルに感動した冥界の王は喜びの声を上げて答えようとした。次の瞬間レイチェルの体は解けて無くなってしまった。冥界の王はレイチェルだった肉界人返り血がこびり付き体を真っ赤に染めた。突然の出来事に理解が出来ない冥界の王は自分の頬や両手を汚す真っ赤な血と先ほどの出来事を思い出し発狂した。


 『嘘だ!噓だ!嘘だ!嘘だ!噓だ!噓だ!噓だ!噓だ!噓だ!レイチェル...どうして...なんで...どうしてええええええええええええええええええええええ!』


彼女の残骸を掴もうとするが真っ赤な血は両手からこぼれ落ちる。正気を失った冥界の王あちこちものを壊しながら原因を探した。


 『さっきまで生きてたんだ!ちゃんと僕の計画は上手く行っていなかったのに!どうして!きさらぎの体を依り代にしたんのに!...きさらぎ?』


冥界の王は先ほどきさらぎが言った言葉を思い出す。しかし自分のミスを認めず転がっていた代行人の首を蹴り飛ばした。


 『全部、お前のせいだ!お前のお前のせいだ!ふざけるなよ!お前がいなきゃ僕らはずっと幸せだったのになんで邪魔するんだよ!』

 『むかつく...ん?こいつ...もういらないな』


冥界の王の足元にフジニアの生首が転がり思わず手で掴み持ち上げた。興味なさげな表情を見せ足で踏み潰そうとした時だった。冥界の王化け物が雄叫びをしたのだ。冥界の王は顔を上げると化け物たちは知らせるように腕を上げた。視線の先には消したはずの狭間の世界があり、壊れた幽霊列車が見えた。


 『あれ?おかしい。狭間の世界は消滅するはずだ。権限は消失してあるはずなのにどうしてまだ存在しているんだ?幽霊列車もある』


冥界の王は不審がりながらみると少しづつ狭間の世界も幽霊列車も黒く染まり消えつつあった。しかしいつまで経っても消えない現状に腹を立て冥界から狭間の世界に繋いだ。フジニアの生首を掴みながら幽霊列車の中を探索すると車掌室の細部の中に一つの本が宙に浮いていたのだ。


 『なんだ?この本は?どこかで見たような気もするが...』


本を手に取り中を確認しようとするが本は意志があるように拒んだ。冥界の王は漆黒の血を操り本を包むと力を失った本は床に落ちた。全てのページを黒く染められた本を拾うとあっという間に幽霊列車と狭間の世界は消失した。


 『一体なんだったんだ?この本のおかげか?ちっぱけな本後時に何が出来る』


本を拾うと中を見たが黒く染まり読みことができない。肝心な表紙も見ることが出来ず諦めて文字を手でなぞった。文字は二重で刻まれていた。タイトルは『幽霊列車~前世の旅』と変わらずだったが著者名が異なっていた。始めはきさらぎと記されていたが隠された文字を名乗ると本の真の持ち主の名前が判明した。


 『著者名は...レイチェル・フレイバー。これ...レイチェルの書いた本、なんでそんなものがここに!』


驚いている冥界の王は思わず本とフジニアの生首を落としてしまった。すると本がゆっくりと開いてみたことのない文字と共にフジニアと代行人の体を包み込んだ。見たことのない眩しさに目をやられた冥界の王は本を攻撃しようとしたが光って謎の文字に体を攻撃され身動きできず力を奪われていく。焦った冥界の王は拘束を解こうとしたが謎の文字は光るとその体は人間の女性のような姿に変わり抱きしめて拘束した。


 『なんだこれ!力が抜ける。やめろ!離せ!』

 『離さない...絶対に...』

 『この声...誰だ!やめろ!勝手なことをするな!』

 『お願い...私の全てを貴方に託す。皆を...彼を...シリアスを助けて...』

 『やめろおおおおおおおおおおおお!』

 『どうして...邪魔をする!レイチェル...』


謎の光文字は優しく囁き声で言うと本を開いてフジニアたちを本の中に引き込んだ。この正体に気づかない冥界の王は暴れるがびくともしない。この主は悲しそうな表情で謝るとフジニアたちに最後の一手を託した。本を一筋の光を纏い冥界に浮かんだ。本の作品が『幽霊列車~前世の旅』著者:きさらぎ から『追憶回想』著者:レイチェル・フレイバーへと変わった。




 誰かが自分の名前を呼んでいる気がする。思い出せない。この声はどこかで意識が目覚めそうな時頭上から微かな声が聞こえた。


 「なあ?もうここは拳で行こうぜ」

 「やめろ...下手にやってここで死んだら意味がないだろ」

 「分かってるが遅くね?俺たちと同じタイミングでここに吸い込まれたよな?」

 「異形にも強さの他に個人差があるんだ」

 「ここでもかよ」

 「お前...フジニアを何だと思ってるんんだ」

 「仮にも悪魔で俺と同じ奴だぞ。こんなやつが俺より劣ってると思うと腹が立つ」

 「子どもか」

 「悪かったな。同族嫌悪ですよーどうせ」

 「分かっているならいいだろう。さて、どう起こすか。ここはやっぱり拳骨だろう」

 「いや、これを使う...」


掠れながら目を開けると代行人らしき異形は本を閉じると懐からメガホンを取り出した。見覚えのあるメガホンを見たフジニアの目は完全に醒めたが代行人は仕舞う様子がない。


 「お前それは...」

 「そ...それは...!代行人、目が覚めたさめたから!」

 「そうだなー」

 「なら仕舞えよ。ほら、こいつも目が覚めたことだし...」

 「そうだなー」

 「そうだなーって棒読みじゃないか!」

 「だってお前らこれまで喧嘩してただろう?「「ギクッ!」」その喧嘩が無くて互いに仲良く協力してたらまだこんな風にはならなかったかもしれないだろ?」

 「だからってそのメガホンはないだろう!」

 「だからこそだ。諦めろ。お前たちの尻拭いをする俺の身にもなれ...それも死神のフジニアまで加わって...「「ご、ごめんなさい...」」謝るなら一発喰らえ...数えるぞ。10...9...」


カウントし始めた代行人を止めようとするが聞きもしない。二人は慌てて謝るが意味もなく二人で逃げるがメガホンを持った代行人が追いかけてくる。


 「何で追いかけてくるんだよ!」

 「ふつう逃げたら追いかけるだろ?」

 「ハンターの考えだ!」

 「ハンターで結構。逃げろサバイバー」

 「サバゲ―みたいになってるぞ。だいたいなんであのメガホン持ってるんだよ。あのメガホンはマジシャンのものだろ?」

 「違う。あれはもともと代行人であるあいつの武器の一つなんだよ。門番の護身用として強度を弱めて渡していた物なんだ。あいつの手に持っている物が本物の威力を持ったメガホン何だよ!」

 「なんつうもん持って、マジシャンに渡してるんだよ。え?ちょっと待て...強度を弱めたって言ったか?俺、マジシャンが管理人時代にあのメガホンを喰らって気を失うほど吹き飛ばされたんだぞ。それよりも威力が上なんてそんなものをくらったら最悪...「死ぬだろうな」なんちゅうもんを放とうとしてるんだ!」

 「そもそもお前たちのせいだしそれ以上逃げるなら威力はMAXにするぞ」

 「「ええ?」」

 「どうする?最強の異形なら、きさらぎを守る幽霊列車の車掌なら甘んじて受けるよな?お前たち」


代行人に詰められたフジニアたちは顔色を真っ青になるながら互いに頷いた。


 「ど、どうする代行人」

 「ここは大人しく甘んじて受け入れよう」

 「そ、そうだな」

 「やってくれ代...「悪い。威力制限するの忘れた」


フジニアと代行人は互いに手を握り承諾して受け入れようとしたが代行人は容赦なく二人を吹き飛ばした。吹き飛ばされた二人はしばらく起き上がることが出来ず互いに走馬灯が見えた。


 「門番...」

 「きさらぎ...」

 「お前たち...大丈夫か?」

 「そう見えるならお前の目は節穴だぞ」

 「ああ...走馬灯が見えた気がする...」

 「俺も...」

 「本の中で走馬灯が見えるわけないだろう」


と代行人に二人はツッコミを入れられた。二人が復活するまで数分経過した。代行人は呆れながら二人を見ると深いため息をした。


メガホンを閉まった代行人は咳払いすると事態を説明した。この空間はきさらぎ並びにマジシャン_レイチェル・フレイバーが書いていた小説の内部となる。著者のレイチェルが書いた最後のページが発動したらしい。


 「もともとあの小説はきさらぎのものではなくレイチェル・フレイバーのものだったんだ。レイチェルは本好きで小説を良く書いていた。きさらぎも同様に小説を書いていたが本好きは門番に受け継がれたようだ。レイチェルはよく代行人に自身の小説を書き見せていた。それが『幽霊列車』だ。元はレイチェルが書いた未完成をきさらぎが『幽霊列車~前世の旅』として完成させたんだ」

 「ちょっと待て!あの小説はもとはマジシャンの物ならなぜ書生である利籐が所有していたんだ?おかしいだろ」

 「ああ...それなら説明が行く。元はただの小説だった。レイチェルの思いや夢が形となり悪魔の異形だった俺たちに影響されたことで力を得たんだ。レイチェルの死後本は力はあっても著者がいなかった。巡り巡って書生・利籐の元へ行き、お前の元に行き、本来の著者であるきさらぎの元に戻ったんだろう。本は記憶や持ち主の魂を覚えているからな」

 「それできさらぎの書いた小説『幽霊列車~前世の旅』が完成し具現化したのか...」

 「著者は変わっても魂は同じであることを認識できる本が重ねて記録していたんだろうな。この小説内は二人の思いや記憶が重なって出来たものだ」

 「追憶回想だったか?そんなものきさらぎが書いている様子はなかったぞ」

 「きっと生前にレイチェルときさらぎの二人が書いていたのだろうな。以前熱心に書いていた一作品だけ見せてくれなかった作品があったんだ。名前だけは教えてくれた『追憶回想』だと」

 「この『追憶回想』はその名の通り過去の記憶の回想だ。俺たち代行人と門番_レイチェルと冥界の王の過去の記憶。それをお前に知ってほしい」

 「知ってだけじゃどうにも...」

 「お前にはある出来事を変えて欲しい。「変えるって一体何を?」正確にはお前に行動してもらい事がある。俺たちが出来なかったことを...叶えられず救えなかった未来を...」

 「重く受け止めないでくれ...お前に俺たちの過去を知って欲しいだけだ。全てを知った上でのお前の答えを聞かせて欲しい」

 「俺の答えを...」


フジニアは目を閉じて今までの出来事を思い出した。代行人とマジシャンと冥界の王の過去の記憶...この事態を引き起こしたきっかけとなった重要な過去。知りたいと思うと同時に知ってしまったら引き返せない恐怖にかられた。『追憶回想』は元人間のマジシャンがレイチェル・フレイバー、生まれ変わりのきさらぎとともに書いた最後の一手。過去を振りかえり見せただけでなく対象者に体験させる物だ。対象者はフジニアで案内人は代行人と小説だろう。知らなかった過去を知るのは案外怖い物だと身に染みて感じた。


 (過去を変えればその分未来が変わる。そうなればきさらぎと俺が出会う未来も無くなる...けどもうこれ以上誰かを失いたくない。マジシャンにこれまで救われた恩を返す時だ。覚悟を決めろ...きさらぎもそうだっただろ)


覚悟を決めたフジニアは目を開けると頷いた。


 「分かったやるよ。これで皆が救われるのなら...俺やるよ」

 「ありがとう...」


代行人はフジニアの目の前に来ると頭を下げた。


 「フジニア...頼む」

 「代行人...任せろ。あんたが頭を下げて謝るなんて調子狂うな」

 「笑うなよ...」

 「悪い。案内頼むぞ代行人」

 「ああ...任せろ」

 「用意はいいな?いくぞ」


代行人は左手を差し出すとそれに合わせてもう一人の代行人も手を重ねた。フジニアもそれに続いて手を重ねると眩しい光が輝き目を閉じた。温かい日差しや風を感じたフジニアは目を開けると見知らぬ場所に立っていた。傍には代行人もいたが彼ら同様に体は透明になっていた。過去の回想のため姿や声が認知できないようだ。


 「これが『追憶回想』...ここが過去の記憶か」

 「懐かしいな...」

 「......レイ」

 「代行人?どうしたんだ?」

 「何でもない...」


代行人は切ない表情で何かを呟いたがフジニアには聞こえず誤魔化された。代行人の心中を知っている代行人は視線をずらした後二人に声をかけた。


 「そろそろだ。二人とも移動するぞ」

 「どこ行くんだ?」

 「全ての始まりの場所に行く。俺と門番が出会った場所...あの森に行く」


代行人は指を指した後フジニアを案内した。森の中は深く自然で溢れていた。


 「この森...まるできさらぎと出会ったような...」

 「はあ...本当に俺とお前は一緒だな。ここは俺と門番が出会った森であり、お前ときさらぎが出会った森でもあるんだよ。運命ってこういう事を言うのかもな」

 「魂でここまで同じなのか...」


自分ときさらぎ、代行人とマジシャンの出会いや出来事が重なる運命に半ば感心していると近くの方から赤子の無く声が聞こえた。体が透けて木の家の中に入ると二つのベビーベットに二人の赤子が寝かされていた。二人は一人は女の子できさらぎやマジシャンに似ていた。もう一人は男の子で見覚えのある顔をしていた。


 「もしかしてこの赤子は...」

 「この赤子は門番と冥界の王だ...」


名前を確認すると女の子に『レイチェル・フレイバー』と男の子に『シリアス・ラベンダー』と書かれていた。


 「二人は幼馴染だったのか...」

 「そうみたいだな。ここから...全てが始まった」


代行人はそう言うと二人の赤子は無邪気に笑っていた。何も知らない無垢の

赤子を見たフジニアはどこか悲しくなった。


 (何もしらない赤子が...あんな結末になったなんて...)


 「追憶回想が始まる...」


代行人が呟くと『追憶回想』が始まった。


 


 




 

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幽霊列車〜前世の旅 《冥界の旅編始動》 時雨白黒 @siguresiguro

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