上手に出来たかなぁ……?

「うう~ん……ど、どうかなぁ……?」


 土曜日の夕方、桃原邸の調理室。そこで首を傾げながら食材とにらめっこをしているのは、この館のメイドの中でも最年少の来栖美玖くるすみくだった。


 145cmという小柄な体型と栗色の長い髪に西洋人形のような美しさを持ち、くりくりした丸い瞳がチャームポイントとなってる彼女は、一目見ただけではとても19歳には見えないだろう。


 ファンシーな雰囲気は容姿だけでなく、彼女の着ているロングスカートのメイド服からも見て取れる。ピンクを基調として水色のフリルをふんだんに取り入れたその装いは、着せ替え人形みたいな雰囲気を猶更強調している。


「ごしゅじんさまには、やっぱり、このメニューが、よろこんでいただける、はずなんだけど……」


 1人にもかかわらずおどおどする美玖。普段から自信がない彼女だが、実は料理の腕は桃原邸のメイド達の中でも随一で、明日菜の舌を幾度となく満足させてきた。その彼女が悩んでいるのは、今夜のメインディッシュだった。


「やっぱり、魚介をたくさん取り入れた海鮮ピザが、いいかなぁ……?」

「あらあら、どうしたの?」

「ぴゃぁ‼」


 不意に背後から声をかけられて全身をビクッとさせる美玖。


「ご、ごしゅじんさま……」

「ごめんなさい、美玖の声が聞こえてきて入ってきちゃったの。驚かしちゃったかしら?」


 美玖の様子を見て申し訳なさそうに彼女の顔を覗く明日菜。


「い、いえいえ。その、ごしゅじんさまの夕飯の献立に、まよっちゃいまして……」

「海鮮ピザがどうとか、言ってたわね」

「は、はい。ごしゅじんさまがお魚料理で好きな献立っておっしゃったので……」

「嬉しいわ、お魚料理だから、愛澤あいざわ姉妹にその献立に合うワインも用意してもらえるように連絡してくれるかしら?」

「は、はいっ。すぐにおねえさま方におつたえしますっ」


 美玖は少し前のめりになりながら明日菜の提案を受け入れ、成人済みのメイド姉妹へ電話で依頼を出した。


「えとえと、おねえさま方がすぐにご用意されるとのことです」

「分かったわ。今日の夕飯、楽しみにしてるわ」

「はいっ!がんばりますっ!」


 明日菜の激励に、美玖は両こぶしを胸の前で握りながらほっこり笑顔で応えた。



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


 夕食の時間は午後7時。それまでの間に美玖はせっせせっせと料理を続けた。明日菜への思いと共に丹精を込めたメニューは流石は料理の達人たる美玖らしいものとなっていた。


 メインの海鮮ピザもさることながら、アサリのミネストローネとミニトマトのマリネとホウレン草のサラダと、どれも見事な出来栄えだ。愛澤姉妹が選りすぐった辛口のロゼワインとの取り合わせも抜群だろう。


「美玖ちゃん、本当に見事な料理ね」

「ええ、私も見習わないとね」

「そ、そんなことありません、わたしはまだ、みじゅくなんですもの……」


 愛澤姉妹の姉の千歳ちとせ、そして妹の千郷ちさとはそれぞれ美玖を褒めた。彼女達はは美玖に次ぐ料理の力量を持ち、現状は未成年の美玖に変わって酒類の選定もしているのだ。3人は明日菜の舌に合う料理の研究に余念がなく、互いに意識をするライバルであり、同時に明日菜を愛する同志でもあるのだ。


「美玖ちゃんは半年後に20歳だったわね。そうなったら一緒にお酒を選ぶことになるわね」

「は、はい。そのときは色々とおしえてください。ちとせさん。わたし、いっしょうけんめいおぼえられるようにどりょくしますので」

「勿論。これからも一緒に頑張りましょう」


 淡々とした声だが、確かな信頼のこもった声色で千歳は美玖にそう言った。


「しかし少々妬けるわ。あなたは和食も洋食も中華も中東料理もインド料理も、どんなジャンルの料理でも文句のつけようがないわ」

「そんな……ちさとさんの洋食にはかないませんよぉ……」

「私も千歳も、あなたに負けたくないって思って腕を磨いてたのよ。オールマイティなあなたに負けないように、自分の得意な分野を極めるって決めたの」

「ごしゅじんさまのために、ですよね?」

「その通り。これからも負けないわよ」


 ライバル心こそあれど、腕を認める仲間として美玖に宣言した千郷だった。


「本当にいい匂いね」


 そうこうしてるうちに、明日菜が食堂へやってきた。千歳は早速彼女を席に案内し、千郷と美玖も千歳についていった。


「本当に美味しそうね。ありがとう美玖ちゃん。千歳と千郷も良いワインを選んでくれてありがとう」

「と、とんでもありません……」

「恐縮です、ご主人様」

「光栄の至りです」


 ちょっとおどおどした態度の美玖と違い、千郷と千歳は淡々とした態度で応えた。これが愛澤姉妹のいつもの態度なのだ。


「いただきます」


 明日菜はまず、アサリのミネストローネを一口啜った。


「うん、アサリの旨味を最大限生かしてるわね。とても美味しいわ」

「あ、ありがとうございます、ご主人様」


 次に海鮮ピザをひと切れ食し、次いでロゼワインを堪能した。


「……本当に合うわね。2人のワインチョイスも完璧。ピザも最高よ」


 最大限の賛辞を贈る明日菜に、美玖は頬を赤らめながらはにかみ、愛澤姉妹は静かにお辞儀した。


 そうして明日菜は美玖の料理と愛澤姉妹のワインを味わい、大変満足した。


「ご馳走様。流石はあなた達ね。今日も本当にありがとう」


 明日菜はナプキンで口周りを拭いた上で席を立ち、美玖を抱きしめ、次いで愛澤姉妹を抱きしめた。


「ごしゅじんさま……ありがとうございますっ!」

「天にも昇る思いです……」

「最高の、お礼です……」


 ポーカーフェイスながらも喜びを言葉にした愛澤姉妹。一方の美玖は心の底からの嬉しさと明日菜への敬愛の情を表に出していた。


(今夜もごしゅじんさまにまんぞくしてくださるお料理をおだしできた……これからもがんばらなきゃ……❤)


 明日菜の温かい思いに触れ、美玖はさらなる向上を目指さんと言う決意を抱くのだった。他ならぬの為に……。

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