第3話

心臓の音が嫌に速い。原因は明白だ。白い便箋と封筒、そして「私はあなたの両親を知っている」の文字。短い文だが比較的綺麗な字だった、おそらく女性が書いたものだろう。最初にその文章を読んだ時には恐怖と気味悪さを感じたが、落ち着いて眺めてみるとそこにはあまり敵意のようなものは感じなかった。むしろこちらの気持ちを深く考えた上でそれ以上書くことを躊躇ったのではないかとも思えてきた。

要はその封筒をもう一度鞄に入れると、一度深呼吸をしてから帰途についた。


帰り道は相変わらずの雪道だ。要はこの町の申し訳程度に並んだ店と遠くに見える山がなんだか作り物のようで好きになれなかった。「ここは私の居場所ではない。」そんな感覚はずっと昔からあったような気がする、家族に対してなのかこの何も無い町に対してなのか、それとも自分自身に対してなのか、要にも分からなかった。ありのままの自分を愛そうなんて言う人もいるけれど、本当の自分の姿を知っている人なんているのだろうか、鏡にうつった自分にみんな納得しているのだろうか。と関係の無いことを考えているとだんだん気が紛れてきた。

そうだ、この手紙はチャンスだ。今までどこか心につっかえていたこと、その原因がきっとこれから分かる。手紙の差出人を探さなければ。

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